天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「わかったから、早く入れ」

 壱生が反対側を向いたのを確認して、純菜は体に巻いていたタオルをとって急いで湯船につかった。

「もういいですよ」

 座り方と両手を駆使してなるべく彼から見えないようにして背中を向けて座る。

「そんなに離れなくてもいいだろ。何もしないから」

「信用できません」

 過去にそれで失敗しているのだ。純菜だってやられっぱなしじゃない。

「ああ、まぁ、約束は破るためにあるからな」

 背後にいる壱生を振り返り、睨むと声をあげて笑っていた。

「じゃあ正直に、何かするかもしれないけど、くっつきたいからこっちきて」

「え、待って」

 純菜の答えを待たずに壱生は彼女の腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。

「つかまえた」

「もう、強引すぎます」

 少し膨れて見せるとその頬に壱生がキスを落とす。

「こうでもしないと永遠に手に入らないだろ。うちの奥さん恥ずかしがりやだから」

 奥さんという響きに照れてうつむく。

 たしかに壱生さんくらい強引な人じゃないと、結婚なんて永遠にできなかったかも。

 そう思いながら胸元に視線を移すと、赤くなっているのに気が付いた。指先でこすってみるが取れない。

「おー綺麗についてるな、キスマーク」

「え、これが?」

「そう、さっきつけたやつかな」

 壱生の手が伸びてきてふくらみの上の赤い印に触れた。

「俺のもんだっていう印。本当はもっとあちこちにつけたかったけど我慢した」

 彼の指先が優しく肌の上をすべる。

「こんなことしなくても、私は壱生さんのものなのに」

 深く考えずに思ったことを口にしてしまい、あわてて口をつぐんだ。

「やっと自覚でてきたのか? 自分が誰のものかって」

「まだ時々信じられないときもありますけど」

「夢だったら、俺が困る」

 背後から抱きしめられて、純菜の肩に壱生の顎が乗る。背中と彼の胸が密着していて体温が伝わってくる。

 湯船につかってほてっているのか、壱生に抱きしめられて熱くなってしまっているのかわからない。

「あ~もうすぐ誕生日だな」

 テラスから中の掛け時計が見えた。時刻は二十三時五十八分。後に二分で日付が変わり壱生の誕生日になる。

「プレゼントのリクエストしていい?」

「さっきもしたじゃないですか?」

 クスクス笑うと壱生が純菜の体を引き上げて、自分と向い合せに座らせた。
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