禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜
――さて。突然だが、私と夫は政略結婚である。
見ての通り望まぬ相手、を通り越して嫌悪感を抱く……も通り越して、生理的に無理!な男と結婚する羽目になったのには深い理由がある。

終戦後、戦争を経験した祖父が立ち上げた『セイカ警備株式会社』は、地方にある小さな街を守る小さな警備会社だった。

私の名前と同じなのは、創業時に初孫にはセイカと名付けると決めて会社名にしたから。孫の代以降も末永く、日本が清らかな平和と安全で華やいでいるようにと願いを込めてあるそうだ。

そんな祖父の会社は、高度経済成長期やオリンピックなどの煽りを受けながら拡大した。
けれども、平成に入るとテレビCMを打つ会社の台頭で顧客離れが進んで……。警備業界が注目され、どこも売上高を数百億円に伸ばしている令和において、九州に点在するうちの売上高は下降が続くばかり。
そんな中、東京都に本社を構える『東藤セキュリティ』が、ぜひ傘下にと事業提携を申し出てくれた。社長が代替わりしてからここ数年で急成長を遂げた、大手警備会社だ。
それからはあっと言う間に話がまとまった。だが、しかし。

『悪いな清華……。すぐに帰ってきてくれないか』
「へ? どうしたの?」
『今すぐ、社長室に来てくれ……』

五月晴れの下。
大学卒業後から父の会社で働き始めた私が皆の昼食を買うため近所のデリに向かっていると、珍しく父から電話が来た。
メニューの変更かな?と思いながら、「はーい」なんてのんきな声で応答する。けれどスマホ越しに聞こえたのは、父の震える声だった。

ただならぬ気配に急いで会社へ向かう。
社名の看板が掲げられた五階建ての自社ビル。その社長室にいたのは、黒服の屈強な男たちに拳銃を突きつけられ、顔を真っ青にしている両親と弟だった。

「きゃっ!?」
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