禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜
だが、と彼女を見やる。
白百合が綻ぶような笑顔で業務に勤しむ様は、両親から大切に育てられた背景が滲みでている。
……国家のためとはいえ、俺が手折っていいような存在ではないな。
彼女の一挙手一投足は、俺の胸を打つには十分だった。

「現状、掌握は難しいかと。警備会社も地域と関わりが強く、うまい弱みも無いので付け入る隙がありません」

盈水會幹部としてボスへの報告は以上だった。

盈水會の資金を動かせば倉庫群を買い取るのは容易だが、足が付きやすい。他者の所有物のまま警備監視系統を管理下に置いて無効化するか、実態のないダミー企業に賃借りさせて、息のかかった警備会社に委託すべきだ。

だが九州には盈水會の息がかかったフロント企業が少ない。そのため「サツに嗅ぎ付けられるリスクが大きい」と上手く話を運べば、深瀬もそれに理解を示す。

「まあどこも手出ししてねぇ時点でそうだわな。わかった。一度引く」

日本全土を脅かす犯罪組織に成長しつつある盈水會が、手を出さなかったのだ。
彼女も、蒼井家も、会社関係者達も……このまま幸せに生きてほしいと願う。

――しかし、事態は悪い方へ進む。
今年勃発した京極組との抗争の最中。裏社会で売名行為をし始めていた東藤セキュリティが、突如としてセイカ警備を傘下に収めたのだ。
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