夜を越える熱
美しい夜に
……暗い夜の闇。黒く輝く空の彼方に光が浮かぶ。


今日はなぜかひときわ夜の闇が美しく、心地よく感じる。


このざわめきの中で、夜の澄んだ大気だけが落ち着いて自分の周りを舞う。少しだけひんやりとした夜の大気。



街の景色。壮大に広がる夜の闇の中で、美しい街の灯りが広がっている。集まった小さな灯りたちが美しい光の渦になってそこにある。



そんな夜の中に、今すぐにでも吸い込まれてしまいたいと思う。








呼びかけて振り向いた彼の瞳がこちらを見たのを思い出す。見知ったその瞳。いつも側にいた。毎日のように顔を合わせて、仕事の話をしたり、時に雑談して笑ったりして一緒に仕事をしていた。


彼の仕事に対する真摯な姿勢が好きだった。


『…高松さん、私、本当はずっとあなたのことが…』


そう言うつもりだった。



伝えるだけでいいと思っていた。長年閉じ込めた自分の気持ちを伝えるだけで。それだけで十分だと。そう思っていた。

言葉が出てこない私を不思議そうに見る瞳。


そこに私は映っていない。

優しい瞳はこちらを見ていても、彼の心はこちらを向いていない。


どこか、ここにいない女性。


彼の心はそこにある。



始まったばかりのまだ熟していない恋とは違う。


来月、その女性と永遠の愛を誓うのだ。


彼のその瞳を見た瞬間、そんなものすべてが瞬時に頭に駆け巡った。



……私は喉まで出ていた言葉を失った。


< 1 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop