夜を越える熱
……時間は分からない。



朦朧とした意識の中で、衣ずれの音にぼんやりと目を覚ました。





彼が身体から出て行く快感にも震えが走り、その後もきつく抱き締められながら意識を失っていたと気がつく。




──薄い暗がりの部屋の中。


今井が起き上がって服を着ている、その衣ずれの音だと気がつく。



振り向きたくても身体が重くて動かない。



幻のような交わりの海の中。さまよっていた意識が戻ったばかりで、身体が言うことをきかない。



「……帰るよ」


意識が戻った藍香に気が付き、この部屋に来たときのようにスーツを着込んだ今井の声がした。



「……今井さん……」


彼に何と言おうとしたのか分からない。


そう呼ぶのが精一杯だった。


藍香の横たわるベットが軋んだ。

今井が側に来たのだと分かる。


「……今井さん」

もう一度呼ぶ。


恭佑だよ。


耳元で囁かれる声。


──恭佑……


藍香が小さく頷くと、額に柔らかいものが触れた。


それが恭佑の唇だったと気づく頃には、彼の気配はもう部屋の中には無く、意識の向こうでドアの閉まる音が聞こえた。








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