夜を越える熱
定時過ぎ。藍香は言われたとおりに部長室の前に来た。


企画事業部の前を通るのに、恭佑の姿がないかと確認しながら。ちょうど彼の姿が見えないことにほっとしながら通り抜けてきた。


恭佑に止められてもここへ来たのは、明日来るという藤崎との約束を破りたくないからだった。



部長室の扉は閉まっている。中に既に誰かがいる気配がした。



その場で立ち止まる。


──私の頭の中はぐちゃぐちゃ……。あんな風に恋人でもない人と、するなんて……


恭佑との情事を思い出すと下腹部がじわりと熱くなった。


──『やめておけ』『食われるぞ』って……それは藤崎さんじゃなくて今井さん、…恭佑自身のことじゃないの?……


恭佑の燃えるような瞳や、強引に抱き締めた腕。熱して汗ばんだ彼の身体や与えられた激しく深い快感を思い出すと頬が火照った。



──分からない。彼の、……恭佑のことが。…私は藤崎さんに惹かれてたんじゃないの?





突然に部長室の扉が開き、先客が出てきたかと思うと藍香の横をすり抜けた。


その人物がどこかの課長だった、と思い出す。


藤崎のところへ来るのは課長級の役職が主だろう。藍香のような一般職員が気軽に来るようなところではないと改めて思う。








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