さよならと誓いのキス
 ベンチに向かう途中で自動販売機の麦茶を買う。一本を柴に渡して、木の下のベンチに腰掛けた。

「諏訪原さんと話がしたかったんだ、でも今日、あなたの姿が見えなかったから。よかった、会えた」
「明日じゃだめだったんですか?」
 聞いてみたが、少しの無言の後で、ぽそりと言った。

「うん、だめ……」
 膝に肘を置いて、ふぅと大きく息を吐いた。

 ――だめ、なんて。なんで……。

 今日でなければならない理由を探したが、皆目見当がつかない。

「大丈夫ですか? 落ち着きました?」
 水を口に含む柴に聞いた。荒かった息もだいぶゆっくりになってきたから大丈夫だろうが、と思いつつ。

「今日は休みだったの? それとも異動?」
 欲しかった答えではないが、その声には力が戻っていた。
「本社で朝から研修だったんです」
 今日会社に行かなかった理由を聞いた柴は、大きく息を吐いてベンチの背もたれに寄りかかった。

「けど、異動という程じゃないですが、アールカンパニー内でなら配置替えは時々ありますよ。上階の方は専属で行っていますし」
「あ、そうなんだね……諏訪原さん、俺――」
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop