男達が彼女を離さない理由
男1
 俺に気付いた。軽く会釈した。男がこちらを見た。無表情になった。彼女に「誰?」と訊いている。彼女は「友達」とだけ言った。確かに、友達だ。間違い無い。それ以上でもそれ以下でもない。もしかしたら「友達」というランクの一番下かもしれない。

 彼女達は店の奥に席を取った。俺の席からは見えないが、声がかすかに聞こえる。聞き耳を立ててしまう。なんか気まずいがここで席を立つのは不自然だ。あからさまに避けているように見えたらイヤだ。
 時折、「大学の…」とか「部活の…」とか「校庭の裏の飲み屋…」とか聞こえる。大学の同級生? てことは同い年か。彼女の方が若く見えるけど。
 あっ! 今男が彼女の名前を呼んだ! うわー、無防備だったから半分聞き逃してしまった。「たんぽぽ」とは程遠い4文字だったな。「おののく」と同じ抑揚の似たような響きの文字づら。そんな苗字ってあるかな。失敗した。もっと真剣に聴き耳を立てとくべきだった。彼女が男の名前を呼んだのは聞き取れたけど、そんなのはどうでも良い。
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