線香花火の初恋【短編】


「私は幸せそうな顔をしている男が好きなのよ。いつもは無表情なのに、崩れるみたいな。でも見つめているのは私でない別の女。そんな目線を独り占めしたくて、告白しているの。手に入ってもこっちに向きそうにないから、私も愛されたいって、気が付いたらたくさん増えてるのよね」

彼女は淡々と、自分が一ミリも悪いと思っていないように事実を述べる。

こんな女もいるのかと慄いて、少しはあった情も恋もすべて消え失せた。その代わり芽生えた花本への思いは胸の内側からじんわりと熱を帯び、火が付き、ぼうぼうと燃えている。

「わかった。もういい。でも、教えてくれてありがとう。それと、今まで楽しかった」

素直にお礼をいったら、彼女は目をまん丸にさせた。たった数か月ではあるけれど。それでも理想に近い、女の子と一緒に何かをしたという思い出はきっち色あせることのない事実だと思う。


「せいぜい、頑張ってね。元カレ君」

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