私の恋心と彼らの執着


「送ってくれてありがとう。ここでいいよ」

 翌朝。
 疲れて時間ギリギリまで眠ってしまったけど、なんとか残っていた荷物をまとめて、引っ越し業者のトラックに詰め込んだ。
 私は、電車で新居のある町まで行く。

 荷物を積んだトラックが去った後、文隆が呼んだタクシーで、駅まで来た。
 彼は見送りに来てくれたけど、コンコースに続く階段の手前で、私は暇を告げた。
 ちょっと名残惜しそうな顔をして、けれどすぐにその表情を引っ込めて、文隆は「そうか」と応じてくれた。

 ホームまで付いてこられると、なんだか、言うべきではないことを口にしてしまいそうだ。だからここで別れる方がいい。

「じゃあここで。元気でね」
「ん、ゆかりも」

 こちらにのばそうとした手を、文隆は途中で止めた。
 行き場をなくして宙に浮いた右手を、少し考えて、右手でつかんだ。
 そのまま、ぎゅっと握る。
 ちょっと目を見張ってから、彼も握り返してくれた。

「頑張れよ」
「文隆もね」

 握手を解いて、手を振り合う。
 文隆の、吹っ切れたような穏やかな目。見ていたらじんわり寂しさが湧き上がってきたので、視線をそらした。
 踵を返して、歩き出す。

 ……今まで私が歩いてきた道は、今は捨てていかないといけないのだ。
 そうしなければきっと、変われない。

 ──だけど違う場所で生きて、変わることができたら。
 新しい恋を始めることもできるかもしれない。

 いつか、そういう日が来たら──
 振り返りたくなった気持ちを抑えて、私は階段を上る足を速めた。


                       - 終 -
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