ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「期間はそうだな――。一年にしよう」

「一年も?」

 二日間だから引き受けたけれど、婚約者を一年も続けられる自信はない。だって私、なんの経験もないから。

 美江ちゃんには見栄を張って経験くらいあると言ったけれど、私はバージンだ。

 二十七歳だというのに経験がないという私の密かなコンプレックス。男性との接触は、手を繋いだのが最接近という恋愛下手なのに一年も演技を続けられる気がしない。

 ほんの少し婚約者をしただけの今だって、混乱しているというのに。

「まるっきりの嘘だったのか?」

 慎一郎さんは、一歩前に出る。

 まともに目を合わせられなくて横を向いた。

 愛していると言ったとき胸が高鳴っていた。かりそめとはわかっていても、恋人になりきっていたから。

 私が知らない恋への憧れ。
 その気持ちが強かったからだと思う。

 誰かを愛し、愛されたくて……。


 彼の手が伸びてきて、私の頬に触れる。

「桜子。少なくとも俺は、婚約するなら君がいい」

 嫌なら無理はしないと言いながら彼は両手で私の頬を包む。

「抱きしめたときに、そう思ったんだ」

 私は嫌とは言えなかった。
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