ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「今回は近くにいたお客様が言ってくださったんだってね」

「そうなのよ」

 上司を呼んできたところで、近くにいた女性のお客様が声をかけてきた。

『彼女はちゃんと注文を聞きに行ってましたよ。それをこの方たちがまだ決まらないとぐずぐず断って。私は見ていたわ』

 女性はあきれたように彼女たちを睨んだ。
 お客様に指摘されて、なにも言えなくなったのか。彼女たちは『なによ』と捨て台詞を吐いて、そそくさと帰った。

「助けてくださったお客様は、私が何度も対応している常連の方だったから、見かねたみたいで」

「やっぱり見ている人は見ていてくれるのね」

「ほんと。お客様が庇ってくれるなんて、すごくうれしかった」

 週に一度か二度は見かけるシルバーヘアの上品なご婦人だ。物腰も柔らかく、スタッフにも決して横柄な態度を取ったりしない。あんなふうに素敵な女性に成長していきたいと常々思っていた。

 お帰りのときに改めてお礼を言うと慰めるように背中に手をあてて言ってくれた。

『私にもあなたくらいの歳の孫がいるのよ。いつも気持ちのいい接客をしてもらっているのに、とても黙ってはいられないわ』

< 155 / 273 >

この作品をシェア

pagetop