9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
声色を冷ややかにしたエヴァンに、カインは末恐ろしいものでも見るような視線を向けた。

怯える弟に、エヴァンはますます威圧的な声を放つ。

「王太子の俺が指示すれば、お前の役にも立たない本を焼き払うことなど、朝飯前だ。図書館を封鎖するのもいいな。それともあのシザースとかいう老いぼれの図書館長を、クビにしてやろうか。お前が気に入っているあの新聖女をひっぱたいてもいい」

口調も顔つきも変わってしまった兄を前に、カインはとうとう口を閉ざした。

「ようやく分かってくれたか。お前はやっぱりいい子だ」

そんなカインの頭を、エヴァンは笑みを浮かべながら優しく撫でてやる。

そしてカインをその場に残し、颯爽と柱の陰から飛び出した。

身支度ならすでに完了している。

侍従に命じて、馬車の中の荷物はすでにエヴァンのものと変えていた。

螺旋階段の前を横切り、玄関ホールへと向かいながら、エヴァンはそっとジュストコールの上から懐に触れる。

その中には、研究所で開発された猛毒を大量に吸収させた針を忍ばせていた。

(セシリアは俺のものだ)

毒針のある箇所をまるで慈しむように撫でながら、エヴァンは馬車付き場に向かって、王太子らしい凛々しい姿勢で歩いていった。
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