9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
空になったカップにティーポットから紅茶を注ぎながら、エリーが意を決したように言う。

「一度、皇太子殿下ときちんと話し合われたらいかがでしょうか? セシリア様の部屋に来られなくなったのは、何かやむおえない事情がおありだからだと思うのです。差し出がましいようですが、皇太子殿下は、セシリア様を特別大事にされているようにしか私には見えませんでしたので」

エリーの心遣いをうれしく思いながら、セシリアは薄く微笑んだ。

「気を遣わなくても大丈夫よ、エリー。私がデズモンド様にふさわしくないってことは、最初から分かり切っていたもの。この身はそもそも、エンヤード王国の未来のためにオルバンス帝国に捧げられたようなもの。愛されなくとも、後宮でそれなりに楽しくやって、一生を終えるわ」

デズモンドは一夜の気の迷いで抱いたセシリアから聖女の証を奪った責任を感じ、自国に連れ帰ったまでのこと。

優しい彼のことだから、言葉巧みに自信のないセシリアに自信をつけてくれたが、それだけのことで、うぬぼれてはいけない。

人生うまくいかないことだらけということなど、痛いほど学んでいる。

「幸い、後宮には親しくしてくださる方がたくさんいるもの。あなたもこうして近くにいてくれるし。楽しい人生になるわ」

セシリアは、心の奥にぽっかりと開いた穴に気づかないフリをして、いまだ心配顔で佇んでいるエリーに向けてニコッと微笑んだ。
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