10年目の純愛
「俺と那奈の別れ方はお互いに納得してたわけじゃなかったから。
これでもう一生会えなくなるって思ったら、なかなか別れることができなくて。
だから、10年後に逢おうって約束したんだ。
あの頃の那奈には、そんな約束が必要だったんだ」

「10年間、連絡を取り合ってたんだよね?」

「違う。連絡はずっとしてなかった。ただ、引っ越したとか、結婚したとかそういうはがきを送ってて、その時に携帯番号を書いた」

「!?」

「決して、やましい気持ちがあったわけじゃない。何かあった時のためというか・・・。元気にやってますっていう近況報告みたいな感じで・・・」

「俺が愛してるのは千夏だよ。千夏・・・ごめん・・・悲しい思いさせて・・・愛してる」

裕太は私を抱きしめた。
私は涙が止まらなかった。

裕太に「愛してる」と言われても、24時間前には『ナナさん』と一緒にいたことを知っているから。
私は連れて行ってもらったことのない高級ホテルでディナーをしているから。



だけど、私は裕太が好きなんだ。
悔しいけど、裕太のこんな出まかせの愛を信じたいって思ってしまうほど愛しているんだ。
『ナナさん』に逢うのは10年に一度だって・・・。


「ううううううううううううーーーーーーーーー」



裕太に抱きしめられたまま、とめどなくあふれてくる涙をこらえられなかった。

裕太の背中にしがみつくように抱きしめる。
裕太はそれに答えて、ぎゅうっと強く抱きしめてくる。


溢れる涙を唇で受け止め、指で拭い、キスをする。
「ごめん」と「愛している」を繰り返しながら、歯を食いしばっている私に何度も、何度もキスを落とす。


そして、私は裕太を受け入れた。
これが私たちの仲直りなのだろう。


決して拭い取れない、黒い染みを胸に落としたまま、私は裕太の謝罪を受け入れた。


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