アラ還でも、恋をしていいですか?


まぶしい光で、目が覚めた。
壁にかけた時計を見ると、5時を少し過ぎたあたり。1年で1番日の出が早い時期だけあって、こんな時間でも真っ青な空がカーテンの隙間から見える。

よいしょ、と両手を使って上半身をゆっくり起こすと、小さく息を吐いた。

「久しぶりに見たわ……健一兄ちゃんの夢なんて」

私が独り言ちた言葉は、誰の耳にも入らない。章とはもう30年ほど寝室を分けている。
私自身も他の女を抱く章に嫌悪感が募り、気持ち悪さもあって分けてもらえた当時は清々したものだ。

それにしても、嫁いでしばらくは故郷の夢を見たけど、最近はまったく無かったのに。どうして今ごろ?

(やっぱりあの人が健一兄ちゃんに似てたから…かしら?)

顔だけではなく明るく屈託ない笑顔や、人懐っこく優しい性格もそっくりだ。


私の母がお礼に作ったおはぎを二口で食べてしまうような、おはぎ大好きな事も同じだった。

口いっぱいに頬張る癖も。


(また、作りましょう。どうせならもっと美味しいものを作りたい。小豆ももち米も古かったから、また新しいのを買わなくちゃ)

考えただけで、なんだかウキウキしてきた。章は絶対甘い物は食べないし、むしろおはぎは田舎臭いと小馬鹿にしていたもの。

私も自分以外におはぎを食べてもらえたなんて、何十年ぶりだろう。腕を磨いてより美味しいおはぎを作りたい、という思いが湧いてきた。

< 24 / 60 >

この作品をシェア

pagetop