アラ還でも、恋をしていいですか?
「……あ」
朝食を作ろうと冷蔵庫を開いて、ふと目についたのがスポーツ飲料だった。
あの男性が私に、とくださったもの。
“熱中症で脱水症状になったらいけませんからね”
さり気ない優しさ。こちらへの思いやり……。
たぶん、彼は誰にでもああして優しいんだろう。
私だから、という区別で優しいわけじゃない。それはわかってる。
でも……
男性からあんなふうに優しくしてもらえたなんて、いつ以来だろう?
私の間近にいる男は夫しかいない。
でも、章は自分の楽しみ優先で家のこと身の回りのことすべて私がやるのが当たり前で。感謝や優しさなど持たれたことがない。
ましてや、私にプレゼントなど……
アクセサリー等の装飾品どころか、花一本すら貰った事は無かった。
結婚指輪だって、“金が無駄だ”と作って貰えなかったし、結婚式も新婚旅行もなく。
自分自身の誕生日には高価なプレゼントやお祝いを請求してきても、私の誕生日はおめでとうもなく、他の女の家への外泊が当たり前だった。
夫婦で一緒に出かけた経験も、ない。
「……ありがとう」
たった一本のペットボトル。それは、64歳にして生まれて初めて血縁者以外の男性からもらえた、嬉しいプレゼントだった。