アラ還でも、恋をしていいですか?
「は、若造が…生意気に人妻を掠め取るつもりか?おい、葛西と言ったな。コイツも不貞行為を働いているぞ!それについてはどう申し開きするつもりだ?ん?」
今の今まで黙っていた章が、非難の矛先を見つけたから急にいきいきとしだした。人のあら捜しが大好きだから、水を得た魚のように。
けど、それは墓穴を掘る形になる。
「申し訳ありませんが、お二方には明確な関係はございませんから、不貞行為にはあたりません…それより、あなたは今までの行いを自省なされた方がよろしいかと」
葛西さんは分厚いファイルの最初からペラペラと軽く捲る。そして、パタンと閉じて私に問いかけてきた。
「隈崎 幸子さん、家計簿や日記はおありですか?」
「は、はい…結婚してからずっとつけています」
家計簿は章の命令で付けてきた。日記は…寂しさを紛らわせるため。章や義母がどれほどのことをしてきたか、気持ちを吐き出すためにつけてきた。
家計簿は100冊近く…日記もかなりの冊数がある。見られるのは恥ずかしいけど、今さらと腹を括った。2つを軽く流し読みした葛西さんは、メガネを外し眉間を指で押すと、ふぅーと軽く息を吐いた。
「……本当にこの金額でよく暮らしてらっしゃいましたね」
「い、いえ…」
私にとって当たり前な暮らしだったけど、葛西弁護士にはそうで無かったらしい。
「60代夫婦2人で月に8万など…到底暮らせませんよ。A社の取締役なら軽く月に80万は超えていたはずです。…つまり、後は好き勝手使われていたのですね」