捨てられ聖女サアラは第二の人生を謳歌する~幼女になってしまった私がチートな薬師になるまで~
「おばあさま! 今日もねむるまえにおはなしをきかせてください」

 六歳になったサアラは夜、眠る前に祖母が聴かせてくれる物語が大好きだった。物心つく頃にはすでに母の姿はなかったけれど、祖母であるソニアがいてくれるので寂しくはない。ソニアは実の娘のようにサアラを慈しみ、惜しみない愛情を与えてくれた。

「サアラは聖女さまのおはなしがいいです!」

 寝室に響く声にはまったく眠る気が感じられずソニアは苦笑する。ストロベリーブロンドの丸い頭は一応枕に埋もれているが、母親譲りのブラウンの瞳はきらきらと輝いている。今夜もサアラがねだったのはお気に入りのアルダントの歴史だ。

「サアラは本当に聖女様のお話が好きですね」

「もちろんです! だって聖女さま、かっこいいんです! 精霊とこころをかよわせて、さいしょに魔法をつたえたきせきのひとです。どんな魔法もあつかえて、精霊をしたがえていて、つよくてきれいで……あ! 聖女さまのようなひとが、ぜっせいのびじょというのですね!?」

「もうわたくしよりサアラの方が上手く話せそう」

 覚えたての言葉を得意げに披露する孫にソニアは温かな眼差しを向ける。聖女が絶世の美女かどうかは伝わっていないが、幼子の夢を壊してはならないと祖母心で誤魔化すことにしたのだ。

「いいえ! サアラはまだまだです。おばあさまのほうがずっとうまくて……今日もおはなしをきかせてくれますか?」

 厳格と名高いソニア・マニーレも孫の前では形無しだ。ソニアは早く寝なさいという言葉を呑み込み、不安そうな上目使いに屈した。
 軽く咳払いをしたソニアは伝説の聖女について語り始める。

「魔法大国アルダント。かつては瘴気に蝕まれ、人の住める土地ではなかった我が国が、このように呼ばれ発展するに至ったのはあの方のおかげです」

 するとサアラは聖女さまだと言って目を輝かせた。
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