たとえ運命の番だと告げることが許されなくても、貴方の側に置いてください……
 暖かな春の陽射しが降り注ぐ中、ひまりは二歳の男児と手を繋ぎ、新芽の緑が美しい並木道をゆっくりと歩いていた。

「和斗(かずと)いい天気だね」

「ね〜」

 小さな手はしっかりとひまりに繋がれていて、父親そっくりな整った容姿で屈託ない笑顔をひまりに向けている。

 ひまりは和臣の子を宿していた。

 子供を授かった事に驚いたものの、下ろすなど考えすらせずに、シングルマザーになる事を決めた。

 子供が小さい事もあり、出産後からまだ発情期は来ていない。

 涼介や事情を聞いた両親からの仕送りもあり親子二人で小さな農村で暮らしていた。

 さすが和臣の子と言うべきか、和斗と名付けたひまりの息子は既にアルファの片鱗を見せている。

「今日の夕食は何にしようか?」 

 手を繋いだ和斗に話しかけると、和斗はいきなり手を離して走り出してしまった。

「和斗!?」

 慌てて後を追いかけると、自宅の前に立ち尽くす男性の前で和斗は仁王立ちしてその男性を睨みつけていた。

 ドクンッと大きく心臓が跳ねる。

 こんな海外のしかも地図に小さく名前が載っているだけの農村にいるはずが無い人物の姿に涙があふれる。

 夢にしてはそれはあまりにも残酷だ。

 もう二度と会わないと決めていた『運命の番』の姿が息子とともにあった。

「ママ!」

「ひまり!」

 ひまりの姿に気が付いたの和斗がこちらへ走ってくるのを追い抜いて和臣が距離を詰めるとひまりの身体を抱きしめる。

 ひまりの身体を包む和臣のフェロモンの甘い香りに、暫く無かった発情期がやってきた。

「あー、和斗は預かるから二人できちんと話をしてこい」

 そう言って和斗を抱き上げたのはひまりの兄である涼介だった。

「すまない」

 和臣はひまりを抱き上げると、一目散にひまりの自宅へと走っていった。

「だぁれ?」

 そのようすに和斗が自分を抱き上げる涼介を見つめる。

「俺か? 俺はお前の伯父さんだ」

 くすくすと笑い、初めて会った甥の姿に苦笑する。

「本当に……嫌になるくらいそっくりだな」

 それから数ヶ月後鷹統財閥の御曹司が『運命の番』を得て結婚した。

 純白の婚礼衣装を身に纏う花嫁は幸せそうで、二人の間には花婿によく似た男児が二人を繋ぐように手を繋いでいたのだった。

完 
  

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