イノセント*ハレーション
では、3人目は...とあたしが視線を向けた直後、目を反らされた。

人見知りの類いなのだと察しが付いた。

あたしも似たような嫌いがあって、新しいものに不安を覚える時は身近にある安心するものを見たりする。

安心するもの...

彼の視線を辿っていくと、その先にはやはりあたしの隣であたしとその他登場人物の橋渡しをしている彼女がいた。

安堵アンド愛を称えた瞳は、まさに...ハレーション。

あたしにはそう映った。


日葵に促され、彼はぎこちなくこちらに視線を向ける。

サザンクロスを頼りに歩いている冒険家のような眼差しに、あたしは不思議と興味が湧いた。

話し出す前から、彼が気になった。

彼の唇がスローモーションのように見え、話し出すまでのものの数秒が永遠のように長く感じたのは、なぜだったのだろう。


「俺は...その...日葵の幼なじみで、1年3組の弓木澪夜です。よ、よろしく...雨谷さん」

「はい。よろしくお願いします」


2人の間に見えた確かな"絆"。

そして、きっとこれからもっと濃く太くなるであろう、"赤い糸"。

それらが、あたしの知る恋だとか愛だとかいう薄っぺらい言葉の類いで表せたとしても表しきれないくらい尊いものになっていくのだろうと、なんとなく察しが付いた。

いつ2人はお互いの気持ちに気づいて、その先に歩んで行こうとするのだろう。

あたしはそれを見守ろう。

ただ見守ろう。

あたしが昔見たり感じたりした、汚い関係性とは異なるものになるように信じ、祈りながら。


なぜそこまで強くこの2人に想いを馳せたのかは今になってもわからない。

けど、なんとなく...

ほんと、なんとなくの感覚でしかないのだけれど、

2人なら見せてくれる気がしたんだ。

あたしの知らない美しい関係(せかい)を。


なんて、あたしの過去も生い立ちも知る由も術もない皆には、あたしの願いも祈りも偏屈も、理解することなんて出来ないのだが。

< 18 / 220 >

この作品をシェア

pagetop