Rain or Shine〜義弟だから諦めたのに、どうしたってあなたを愛してしまう〜
* * * *

 カーシェアリングで借りた車で、二人は家までやってきた。金曜日に恵介に促されるまま家を出てから二日。自分の家なのに、玄関の前に立つと身震いがした。体全体で家に入ることを拒絶していた。

「俺が戻るまで、まだ入らなくてもいいんだよ」

 近くのコインパーキングに恵介が車を停めにいっている間に、一人で必要な荷物の整理を始めるといったのは瑞穂だった。

「大丈夫。行ってきて」

 そう言って恵介を送り出すと、瑞穂はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと家の中に入る。雨戸を開けていないからか家中真っ暗で、ジメッとした陰湿な空気が漂っていた。

 体がぞくっと震え、何故かはわからないが胸騒ぎを覚えながら二階への階段を昇っていく。階段の軋む音が恐怖を煽る。

 自室のドアノブを押し開けた時だった。部屋の中を見た瑞穂は恐怖と驚きのあまり口元を押さえてその場に座り込んだ。

 服やカバン、化粧品が足の踏み場がないほど散乱していた。

「何……これ……」
「あぁ、やっと帰ってきた」

 突然背後から声が響き、瑞穂は声のした方を振り返る。そこには崇文が立ち、無表情のまま瑞穂を見ていた。

「夫を放っておきながら、弟と観光を楽しんだのか?」
「そ、それは……!」

 崇文は瑞穂の髪を掴んで床に叩きつける。それから再び髪を掴んで引っ張り上げた。

「い、痛……」
「お前の仕事はなんなんだ! この家の家事だろ⁈ 良い身分だよな! 働きもしないで俺の稼ぎで遊んでりゃ世話ないよなぁ!」
「ご、ごめんなさい……!」

 崇文が立ち上がり、瑞穂の腹部めがけて足を蹴り上げた瞬間だった。勢い良く黒い影が飛んできたと思うと、崇文の体が遠くに飛ぶのが見えた。

 何が起きたかわからずに呆然としたまま座り込んでいた瑞穂を、誰かが優しく包み込む。柔らかくて、懐かしい香りが鼻をつき、瑞穂の目からは涙が溢れた。
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