心はあなたを探してた
氷結王子とちびほ
「はぁー」

夜9時を回った時計を眺めて私、松本里帆はまだ終わらない書類の山を横目に、今日何回目かわからないため息を周りに誰もいない職場でついていた。

それなりに楽しかったけれど、勉強と研究に明け暮れていた大学を卒業し、精密機器を扱う大手企業コーナンに就職して、これからおしゃれや旅行、合コンと楽しいOL生活を思い描いていたのに、研修が終わり配属された途端、残業の日々が始まった。

会社がブラックなんじゃないのは、私以外の総務課の皆様は、定時から1時間ほどでお帰りになっているから、理解している。

私だって同期の香織ちゃんや飛鳥ちゃんとは、新人研修の間は一緒に帰りに寄り道したりしていたし、営業部の2人は今でもそれなりに楽しんでいるらしい。

それなのに私は配属から2ヶ月経つのに定時で帰れたためしがない。

それもこれも私の教育担当、久川恭輔のせいだ。

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