大切なあなた
「帰らないでって泣いたのは誰よ」
さすがに照れくさくて、視線をそらした。

「それは、お前・・・」

ほら、恥ずかしいでしょ。

影近が泣き虫だと思ったことはない。
もちろん強い男だと思ったこともないけれど、いつも飄々としていてあまり響かない人。それが世間から見る影近のイメージ。

いざとなれば叫んででも、噛みついてでも逃げることはできる。
影近一人くらいどうにでもなると思ったけれど、
「唯、苦しいんだよ」
声を震わせた影近を振り払うことはできなかった。

確かに、男の人が人前で泣くのって、よっぽど苦しい時なんだよね。

「学生時代の仲間として、いつでも胸を貸すわよ」

それが正しいことなのかはわからないけれど、それで影近の辛さが和らぐのならね。

「相変わらず、男前」
「まあね」
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