シークレットの標的(ターゲット)
評判の男
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「あれ?もしかして大島じゃない?」

「そっちはもしかして森山君?」


上司に教えてもらったバー。一杯だけで帰ろうと店を出ようとしたところでカウンターに座るスーツ姿の男性に声をかけられた。

森山君は高校の同級生だった。
勉強もスポーツもできて話しやすい、おまけに顔立ちもなかなかという三種の神器を兼ね備えたような森山君は当時かなりモテていた。

制服からスーツ姿に変わっても格好良さは変わらない。
むしろ大人の魅力が加わって魅力が倍増しているといっても過言ではない。


「成人式以来だな」

「そうね。久しぶり」

思わぬ場所で久しぶりに顔を合わせた同級生に微笑みで応じていると、森山君に同伴者がいることに気が付いた。

やはりスーツ姿の同年代の男性。
切れ長の目にすっと通った鼻筋。その整った顔立ちは森山君より少し凛々しく、こちらもかなりモテそうな人だ。


「大島は来月の同窓会は参加する?」

「うん。そのつもり。森山君は?」

「俺もだよ。篠原も北田も行くらしい」

「そう。じゃまた来月に会えるわね」

森山君の同伴者に失礼にならないように話を切り上げ、森山君に軽く手を振り、隣の男性に会釈をして店を出た。

少しだけ視線が合った時に睨まれたような気がしたけど、気のせいだよね。



店の外は夜の匂いがした。
少し湿ったような、それでいて昼間の喧騒とも違う空気感。

この店がビジネスビルの谷間にあるせいで、夜が更けてくると人通りは少なくなり周囲は比較的静かなものになる。
飲食店はこの先の地下街に集約されていて、酔客がこの道を通ることも少ない。




月も星もろくに見えないような所だけれど、
私はここで働くと決めた。

父親から実家のレストランを継いでほしいといわれたけれどそれを断り、今の道に進んだ。
それから父との関係は距離を置いたものとなり、今や実家に顔をだすことはほとんどない状態だ。

それでも私は自分の道を進みたい。
とにかく今は前に進むしかない。

明日からの業務を考えると頭が痛いけれど、何もキツいのは私だけじゃない。
とにかく頑張ろう。






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