シークレットの標的(ターゲット)
足首の痛みと背中の痛みと何が起こったのかわからない衝撃でその場にずるずると座り込んだ。

ーーーどういうこと。
あんたのせいで、って言われたけれど、私が宮本さんに何をしたというのか。
しかも、聞き違えでなければ、彼女”向田さん”って言っていたような。

彼女が書庫に侵入して何を探していたのか。

わからない。


「おっはようございまーっす。って、あら、大島さんそんなとこでなに座り込んでるんですか」

廊下と健康管理部との間の自動ドアが開いた音がして、
ヒールの軽快な音と共に暢気な声を出したのは
ーーあの小池さんだった。

「今そこで宮本さんとぶつかりそうになったんですけど・・・わ、やだ、大島さん足首腫れてるじゃないですか。どうしたんですか」

朝っぱらから私が変な姿勢で廊下に座っていたことに目を丸くしていたのに、すぐに足首の異変に気が付いてくれたなんて、小池さんは意外に優秀なナースだったらしい。

既に小池さんが医療従事者の顔になっていた。

「ドクターが来るまで冷やして固定しましょう。大島さん、立てます?」

「うん、多分大丈夫だと思う」

小池さんの手を借りて右足を庇いながら立ち上がる。
ズキズキするけど、目と鼻の先にある救護室まで歩けないほどじゃない。

「ムリしないでこのままここで処置してもいいですよ」

痛かったらこのままこの廊下に物品を運んできてここで処置をしてくれるという。
予想外の親切な言葉にも驚きだ。

「ありがとう、大丈夫移動するから。これ救護室の鍵なの。ゆっくり行くから先に行って開けてもらってもいいかな」

さっき落とした鍵を小池さんに渡して壁に手を当てて左足を踏み出した。
うん、痛いけど大丈夫。歩ける。

私のその様子を見て、小池さんが廊下に落ちていた荷物を拾い救護室のドアを開けてくれた。

自分でアイシングの準備をしようとして「けが人はおとなしくそこに座って下さい」と小池さんに止められる。

「ありがとう。お世話になります」

素直にお礼を言うと笑われた。

「立場逆転みたいでちょっとキモチイイかも」

そんなところはやっぱり小池さんだけど、処置の手際もいいし助けてもらっている私は文句が言えない。
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