シークレットの標的(ターゲット)
「でもどうして何もないとこでくじいたんですか」

宮本さんと仲がいい小池さんに本当のことを言ってもいいのだろうか。
小池さんの表情は何もないところで転んで呆れているようにしか見えないけれど、もし小池さんも宮本さん同様何かを探しているのだとしたら?

こんなタイミングで小池さんが現れた事も不自然だ。

「ねえ、小池さんも宮本さんもどうして今朝はこんなに早く出勤したの?」

何か二人の間に秘密があるのだとしたら本当のことは言わないかもしれない。
でも、今は聞くしかない。

「わたし、みんなには秘密で大島さんに渡したいものがあったんで早く来たんですけど。大島さんの出勤時間が早いの知ってましたし。でも、宮本さんは知りませんよ?何ですか?」

私がちょっとシリアスな表情をしていたことで小池さんも何か感じたらしく首を傾げた。

「え、まさかですけど、もしかして、宮本さんと何かあったんですか。彼女血相変えて慌てて走って行っちゃうし、声を掛けても無視されたからからおかしいいなあと思ったんですけど」

「私にもよくわからないのよ。いきなり宮本さんに突き飛ばされちゃったから」

書庫から出てきたこととは伝えず、小池さんの出方を窺うことにした。

「えー、ちょっと状況がよくわからないんですけど。こんな時間に宮本さんが出勤してることもおかしいし・・・もしかして大島さん宮本さん呼び出してタイマン張ーー」
「違うわよっ」

いまタイマン張るとかなんとか物騒なこと言おうとしてなかった?
ヤンキーじゃないんだから。

「そうですよね。大島さんと宮本さんがトラブルになってたとは思えないし。ホントに何があったんですか」

「それ、こっちが聞きたいんだけど。走ってきていきなり突き飛ばされたのよ。彼女慌てて出て行っちゃうし。ねえ宮本さんって何かトラブル抱えてたの?」

「私は聞いたことないですよ。宮本さん付き合ってる人がいるからシークレットさん絡みで大島さんのこと恨んでるとは思えないし」

「そうなんだ・・・」

「ああ、でも、最近宮本さんイライラしてたから幸せそうな大島さん見て余計にイラついたのかもしれませんねぇ。でも、怪我をさせるのはダメだわ」
小池さんはふうっとため息をついた。

「これ、主任に報告案件ですよね。わたしちょっと宮本さんに連絡してみます。大島さんもできればみんなの出勤前に主任に連絡してもらってもいいですか。」

今までのことが嘘のように今日の小池さんの判断は真っ当だ。
どうしちゃったんだろうと思いながらも今はもっと他にやらないといけない事があると思いだした。

うんと頷いてスマホの入ったバッグを取りに立ち上がる。

ちょっと痛いけど、小池さんがしっかり固定してくれたから立てるし歩くこともできる。

「大島さん、宮本さん電話に出ません。メッセージにも既読付かないし。どこ行っちゃったんだろ。就業時間までには戻ってきますよね」
小池さんは心配そうだ。

「気になるので、わたし更衣室とかちょっとその辺り見てきます」
パタパタと救護室から出て行った。


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