エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
「でもデビューするには、事務所に入所金とレッスン料を支払わなくちゃならないんだ。だから頼む。金を貸してくれ」
涼ちゃんが体の前で拝むように手のひらを合わせる。
あと少しで長年の夢が叶う彼らを応援したいという気持ちはある。けれど、元カレにお金を貸すのはさすがに抵抗がある。
「ごめんなさい。お金の貸し借りは誰ともしないようにしているの」
頼みごとを拒否されて喜ぶ人はいない。
嫌な思いをさせないように、慎重に言葉を選んで借金を断る。けれど、涼ちゃんは納得してくれなかった。
「アイツ、アサヒナ自動車の社長だったんだな。本当は俺と別れる前から、アイツと付き合っていたんじゃねえの?」
自分のことは棚に上げて、私と龍臣さんの関係を疑うなんて信じられない。
「それはないから」
私を責めるような言葉を不快に感じていると、涼ちゃんが面倒くさそうにテーブルに頬杖をついた。
「まあ、今さらそんなこと、どうでもいいけどさ。とにかく早急に金が必要なんだよね。お前が貸してくれないなら、社長のアイツに頼んでみようかな」
涼ちゃんが、私に視線を向けてほくそ笑む。
龍臣さんの名前を出して、私を動揺させるなんて卑怯だ。
「それはやめて」
「だったら、どうすればいいかわかるよな?」
声のボリュームこそ抑えているけれど、涼ちゃんの口から出る言葉は高圧的で怖い。