エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
モヤモヤした思いが募るなか、杏奈ちゃんのご両親とラウンジでお茶をするという親と別れ、家に帰るためにロビーを進む。すると、テンション高く会話を交わしているグループのひとりと肩があたる。
「痛てえな」
ぶつかってきたのはそっちで文句を言われる筋合いはないと思ったけれど、目の前で大きな声をあげられるのは怖い。
「す、すみません」
ブラックスーツ姿の男性の前で身を縮めて謝ると、唐突に顔を覗き込まれた。
「あれ? キミかわいいね。これから俺たちと飲まない?」
きっと酔っ払っているのだろう。間近に迫った顔は赤いし吐き出す息はお酒くさい。
見ず知らずの人と飲みに行くつもりはないし、酔っ払いは嫌いだ。
「いいえ。結構です」
「そんなこと言わないで一緒に飲もうよ」
断ったのにもかかわらず、しつこく誘ってくる男性にあきれていると腕を掴まれる。
酔っ払いに絡まれるのは今回が初めてではない。
田園調布の駅前で起きた忌々しい出来事が頭によみがえり、心臓がドキドキと激しい音を立て始める。でも、ホテルのロビーにはたくさんの人がいる。いざとなったら大きな声で叫んで助けを求めればいいと自分を奮い立たせる。