エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
「離してください」
勇気を出して掴まれた腕を力強く引いたとき、横から聞き覚えのある声が耳に届いた。
「今すぐその手を離せ」
どうしてこの場に朝比奈さんがいるのかわからない。けれど、男性の前に立ちはだかって私を庇ってくれる大きな背中を見た瞬間、もう大丈夫だという思いが胸に広がる。
体が小さく震えるなか、気持ちが徐々に落ち着いてくるのを実感していると、私の腕を掴んでいた手がパッと離れた。
「なんだよ。連れがいるなら早く言えよな」
男性がチッと舌打ちをしてグループの輪の中に戻って行く。
自分勝手な振る舞いには腹が立ったけれど、ようやく解放されたという安心感の方が強い。
ホッと胸をなで下ろしていると、朝比奈さんに顔を覗き込まれる。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」
私ひとりでは酔っ払いを撃退できなかった。
朝比奈さんがいてくれて本当によかったと安堵した。
「ここは騒がしいな。外に出よう」
「はい」
彼が私の背中に手を添えて歩き出す。
「俺は取引先の社長のご子息の結婚披露宴に出席していたんだ。美桜さんは?」
「私は従姉の披露宴でした」
「そうか。同じホテルの披露宴に出席していたとは偶然だな」
「そうですね」