エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

朝比奈さんと結婚してお腹の子を生むと決めたけれど、予期せぬ妊娠に戸惑ったのは事実で、自分はまだ母親になる覚悟が足りていなかったと改めて痛感したのだ。

「そうか? 俺は複雑な気持ちだ」

「複雑?」

彼も私と同じように安心したと思っていたため、なにが『複雑』なのかわからず首をかしげる。

「結果的にデキ婚にならなくてよかったという思いと、父親になり損ねたという残念な思いが心の中で入り交じっている状態だ」

朝比奈さんの低い声が車内に響く。

私が想像していた以上に、妊娠を喜んでくれていたと知って胸がチクリと痛んだ。

「すみません」

「いや。責めているわけじゃないんだ。誤解しないでほしい」

朝比奈さんを振り回してしまったことに負い目を感じてしまい、返す言葉が見つからない。

小さな声でただ「はい」と返事をしたまま黙り込む私を気遣うように、彼が話題を変える。

「カジュアルな格好も似合うな。かわいいよ」

今日は夏を意識して、爽やかなレモンイエローのトップスと白のパンツをチョイスしてきた。

いつもさりげなく褒めてくれる優しさがうれしい。

「ありがとうございます。朝比奈さんもとてもカッコいいですよ」
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