クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
こんな下着を買った理由は、あの離婚調停の奥様にある。
彼女のことをほんの少し理解できて、いつの間にか自分に重ねて見るようになっていて……それを説明したつもりだったけど、拓哉さんのアドバイスのことは、どんな風に話したっけ。
――ダメだ。記憶を辿れない。


とにかく、彼の気に障ったなら謝ろうとして、いきなりキスをされた。
去年の初夜でされた初めてのディープキスより、もっともっとすごいキス。


息ができなくて苦しくて、私はほとんどなす術を失い……奎吾さんは途中で『やめよう』と言った。
私が初めてだったから?
もともと形だけでよかった妻が処女だと知って、面倒臭くなったから?
それじゃあ、私はこの先どう頑張っても、奎吾さんには……。


「……ふ、うっ……」


胸に膨れ上がる悲しみが喉に詰まり、嗚咽になって口から漏れた。
ひくっひくっとしゃくり上げる声を、枕に顔を埋めて抑え込む。


奎吾さんは、きっと警視庁に行ってしまったはず。
この家には、私以外誰もいない。
だけど私は、頭から布団を被って、声を殺して泣いた。
旦那様に最後まで触れてもらえず、子供のように泣きじゃくる自分が惨めで、堪らなかったから。
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