朝を探しています
7.破砕

〜雅人〜

 昨日の波那は、なんとなくおかしかった。

 会社のデスクで始業前にパソコンに向かいながら、雅人は週末のことを思い起こしていた。

 思いつきのようなタイミングで真美に別れを切り出してしまったが、それについては今も惜しい気持ちが一切湧いてこない。むしろほっとしたような解放感を感じていて、あれほど真美を可愛いと思っていた気持ちも嘘のように鎮まっている。

 土曜日の夜から日曜日の朝まで。『恋人のように』という真美の願いを、誕生日に別れを切り出した負い目もあって断れなかった。
いつも以上に乱れた真美に煽られて、空が白む時間までその体を貪ってしまった。
 そのまま少し眠った後、最後にと真美に強請られて一緒に風呂に入り、普段は使わないボディソープでお互いを洗い合った。泊まりになることは伝えてあったので問題ないと思ったのだ。

 風呂から上がって着てきた服を身につけたとき、一緒に置いてあったスマホに気付いたた。
 波那からの何件もの着信とメール。

 自分の血が音を立てて下がっていくのを生まれて初めて感じた。スマホを掴む指先が小刻みに震えたが、最後に幸汰を連れて家に帰るとあるのを読んで少しだけおさまった。
 けれど詳しいことは何もわからない。
 きっと波那も動転しているのだろう。早く帰らなければ…

 朝食を一緒にという真美に別れの挨拶もそこそこに、飛ぶような勢いでマンションを後にしてタクシーを捕まえた。
 夕べ自分が真美を抱いている時に3人が大変な思いをしていたと思うと吐きそうなほどの罪悪感に襲われた。

 どうして一度もスマホを確認しなかったのか。それ以前になぜ泊まりなどという願いを聞いたのか。
 いや、そもそも真美とこんな関係になっていなければ…

 家までの数十分の道のりを途方もなく長く感じた。
 そして駆け込んだ家で、床に座り込んでいる波那を見つけて…

 子どもたちの無事を確かめて、波那に謝ってようやく息をつけた。
 夜に父の日ということで自分を労ってもらった時は、幸福感と共にまた罪悪感がむくむくと顔を出したけれども、真美ときちんと別れてきたことで自分に言い訳ができた。

 ただ、終始波那がよそよそしい感じだったのが気になる。…自分の後ろめたさが生んだ気のせいかもしれないが。

 とにかくこれからは家族を裏切るような真似は絶対にしない。

 
 決意を新たに、いっそ清々しい気持ちで雅人はその日の仕事に取り掛かった。
 
 

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