朝を探しています

〜波那〜

 平日は朝幸汰を保育所に送り届けてから15時まで、波那は近くの介護施設の事務室で経理補助のパートをしている。職場には小さい子を持つ男性も女性もいて、子育てにつきものの急な欠勤や早退について理解があることが波那にはありがたかった。

 月曜日、幸汰の様子からやはりもう1日は家で様子を見た方が良さそうだと、波那は保育所と職場には休みの連絡を入れた。
 友だちに会えずにぐずるかと思った幸汰だったが、見た目ほど本調子ではなかったか素直に布団に包まっている。

 いつもよりゆっくりと家事を済ませ、そっと寝室を覗いたところでインターホンが鳴った。
 モニターを見ると、マンションのエントランスのところに郵便配達員が見えた。

「はい。」
「斉木波那さんに書留です。」
「私に…? あ、はい。部屋にお願いします。」

 しばらくして配達員から受け取った封筒には、確かに『斉木波那様』と女性らしい文字で書かれていて、差出人は『山田幸子』となっている。
 全く記憶にない名前に首を傾げながらも開けてみると、中から一枚の便箋と緩衝材に包まれたUSBメモリーが出てきた。

 ドクン

 そのUSBメモリーを見た途端、波那の心臓が大きく一つ鼓動を打った。

 折り畳まれた便箋とメモリーを手に、波那はぎゅっと目を瞑った。今朝家を出て行く雅人の顔が浮かぶ。

 …関係ないよね?

 外泊のことは結局雅人に何も聞かずじまいだった。
 向き合うのが怖くて後回しにしてしまったが、なかったことにはできないとも思っていた。…漠然と。

 そのことと、関係なければいい。


 ソファに座り、恐る恐る開いた便箋の一行目には、『山田幸子』ではない女性の名前が書かれていた。


『はじめまして。片山真美と申します。』
 

 
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