朝を探しています
3.噓偽

〜雅人〜

 結局、あれからも真美との体の関係は続いている。元夫に仕込まれたらしい真美とのセックスは、穏やかで枠をはみ出さないような波那とのものとは対照的で、雅人は次第に真美との夜を心待ちにするようになった。



 …昨夜の真美も良かった。

 
 土曜日の朝、見るともなしにテレビで情報番組を眺めながら、雅人が前夜の情事を思い出していたところに波那から声がかかる。

「雅人、まだぼーっとして、眠いんじゃないの? 夕べも遅かったんだし、もうちょっと寝ててもいいよ?」

 そう言う波那はカゴいっぱいの洗濯物を抱えてベランダに向かっている。足元には幸汰が纏わりついていた。
 天気は晴天で、5階の雅人たちの部屋には外から初夏の爽やかな風が舞い込んでいる。 

 頭を巡らせれば、ダイニングのテーブルで宿題らしきものをしている琴乃が見えた。


 幸せだな、と思う。
 同時に、さっきまで自分が思い出していたものがあまりに汚らわしく思えた。


「大丈夫。幸汰、ママ忙しいからこっちおいで。」

 
 確かに真美はかわいいし、魅力的だ。
 まるで少年の頃のような恋に似た感情を持っている、とも思う。
 けれど、今ここにある幸せとは天秤にかけられるようなものではないこともよくわかっている。

 2歳年上の波那とは幼なじみで、付き合う前からずっとお互いを支え合って生きてきた。
 結婚し、可愛くて仕方がない2人の子どもにも恵まれた。
 この場所は、何ものにも替え難い雅人の宝物だ。


 だから、真美とのことは長い人生の中のちょっとしたスパイスでしかないのだ。
 波那はしっかりしているが少し鈍いところがあるから、バレることはないだろう。今だって、昨夜のことを何も疑っていないからこそ、雅人の体調を気遣ってくれたのだ。

 
 若い真美にいい奴ができたら、すぐに関係を清算するつもりだ。その後は、また今まで通り家族のことだけ考える良き夫、良き父に戻ればいい。

 自分は母親のように家族を捨てるようなことはしない。
 

 それは雅人にとって絶対だった。
 だからもう少しだけこのままでいさせて欲しいと、心の中だけで波那に頭を下げるのだ。



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