朝を探しています

〜雅人〜

 雅人は昨夜、真美と1つ約束を交わしていた。

『ネックレス、ありがとうございました。…でも、もう一つだけ、プレゼントをもらえませんか。』

 贈ったネックレスだけを身につけた姿でシーツに包まった真美が、シャワーを浴びてベッドに腰掛けた雅人の背中に顔を寄せてきた。
 セックスの後、雅人はボディソープなどは使わずにシャワーを浴びる。波那に気づかれない為で、真美もそのことは知っている。

 だから帰り間際にこんな風に体を寄せることは珍しい。

「…なに?」
「明日の夜…私と一晩一緒にいてくれませんか。それで、12時を過ぎたら真っ先に誕生日おめでとうって言ってほしいんです。」
「それは…」
「お願いです。誕生日だから…もうこれからこんな我儘は2度と言いません。だから明日だけ、雅人さんと一緒にいさせてください。そしたら、また雅人さんを好きな気持ち、ちゃんと仕舞っておきます。お願いです…お願い…」

 背中に真美の唇と、温かい液体…おそらく涙だろうものを感じる。
 
 当たり前だが人目につかないよう、真美とはデートらしきものなどしたことがない。離婚経験があるとはいえ楽しいはずの若い盛りを浪費させてしまっているような負い目が、雅人には少なからずあった。
 
 ふと、最近旧友の悟から連絡があったことを思い出す。
 近いうちにどこかで飲み明かそうと話していたが、それが明日になったと言えば、上手く波那をごまかすことができるかもしれない。

 誕生日の我儘くらい、聞いてやりたい。


 明日の夜7時に、真美の家に行く。

 昨夜、そう言ってから雅人はホテルを出たのだ。
 
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