朝を探しています
4.果然

〜波那〜

「それじゃ、行ってくるから。たぶん最後は悟の家で飲むんだろうけど、朝ごはんまでには帰ってくるよ。」
「あんまりひどい二日酔いにならないようにね。」
「幸汰、大丈夫かな。」
「昼間遊び過ぎて疲れたんだと思う。最近雨続きであんまり外で遊んでなかったから。ちゃんと見ておくから、心配しないで。」
「ごめん、頼む。」

 そう言って、この前波那と一緒に行ったデパートで買った新しいシャツに着替え、雅人は出かけて行った。
 午後からは近くの河川敷に幸汰を連れて行って、キャッチボールや最近乗り始めた自転車の練習に付き合ってくれた。その間、波那は琴乃と近所のスーパーに行って、ケーキの材料を買い込んだ。明日は父の日で、パパ大好きな琴乃は手作りケーキを作ろうと目論んでいるのだ。

 しかし、夕方になって幸汰の様子が少しおかしくなった。ソファでぐったりとしておやつもほとんど食べずにいる。
 熱はなくて、雅人に言ったように疲れただけだとは思うがやはり心配だ。
 
「ママ、こうちゃんだいじょうぶ? ジュースもってこようか?」
 眉を下げて見上げてくる琴乃の頭を柔らかく撫でて、波那は幸汰を抱き上げた。
「大丈夫大丈夫。でもちゃんとお布団で寝た方がいいから、ママ運んでくるね。ジュースは今はいいかな。」

 琴乃はそうでもなかったが、幸汰はわりとよく体調を崩す。小児科で一度相談した時には、幸汰が平均的で琴乃がすこぶる丈夫なのだと言われて雅人と2人胸を撫で下ろした。

「早く良くなるといいね、幸ちゃん。」

 布団に入るとすぐに寝息を立て始めた息子の前髪をすきながら、波那はそのおでこに軽く唇を当てた。

 けれどこの夜は、波那にとって長く苦しいトンネルの入り口になったのだった。

 
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