初恋幼馴染みに求婚されました
それから立ち上がっては「鯉に餌をあげにいこうか」と、手を取り私を立たせると、その手を離し池の方へと歩いていってしまう。
気を紛らわしてくれる優しさと、恋の終わりを自覚した切なさから涙が滲む。
正君の後ろ姿を追いながら、密かに涙を拭った。


しばらく庭で過ごした後は、加代さんに料理を習うことにした。

正君はというと庭の草取りや水やりをして両親の帰宅を待っていた。

17時過ぎ。

母が帰宅したものの正君を見て目を丸くして、義母に会ったか確認し「菫さんを連れて来るわ」と、慌てて家を出て行った。

「正君、お義母さん来ちゃうよ」

「うん」

「大丈夫?」

すると彼は「大丈夫、迷惑をかけた分しっかり叱られるよ」と少し困り顔で微笑んだ。
緊張が窺える。

「私が味方するから安心して。それに全然迷惑なんてかけられてないから大丈夫だし」

安心させるように顔いっぱいを笑顔にしたものの、次の質問ですぐに硬くなる。

「それは宗太朗と結婚できたから?」

「……そうだね」

短期間の結婚だったけど、宗君と結婚できて私は嬉しかった。
昨夜は幸せな思い出もできた__。

しかし感傷に浸る暇はなかった。

玄関の方からバタバタと足音が近づいてきたかと思うと、義母が駆け込んできては正君の目の前に立ち「正太朗!」と、ビクッとするくらい大きな声を上げたからだ。
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