初恋幼馴染みに求婚されました
正君は「母さん、お久ぶりです」と硬い笑みを浮かべる。

「……お久しぶりですじゃないわよ、突然結婚式前にいなくなったかと思えば、こちらにお邪魔して……あなた一体何を考えているの」

義母は感情豊かではあるが、私の前でこれほど声を荒げるのは珍しい。
といっても、義母の言うことは正しいと思う。

「約束を破ったうえ非常識な行動をして……今までこんなことしかったのにどうしちゃったの。ちゃんと説明してちょうだい」
 
正君が黙ってしまったから、私は義母の軽く腕を引いた。

「お義母さん、大丈夫だからとりあえずお茶でも飲んで落ち着いて話をしようよ」

「梨華ちゃんも怒っていいのよ、正太朗のせいで随分迷惑をかけてしまったのだから」

「私は大丈夫だよ」

宗君には迷惑をかけたかもしれないけど……と、心で続けた。

「菫さん、叱らないであげて。梨華は大丈夫だわ。それより少し冷静になりましょう。お話ししたいことがたくさんあるのはわかるわ、久しぶりに正君が帰ってきてくれたんだもの、ゆっくり話ましょう」

母は優しく言うと、義母をソファに誘導し座らせた。
 
おっとりした母の口調に義母は少し落ち着きを取り戻したようだ。
正君がいなくなった日は冷静を欠いていた母だが、今落ち着いていられるのは私が宗君と結婚したため。

それを思うと、離縁を決めたことにひどく申し訳なさを感じる。

気を紛らすため加代さんに習ったばかりのチョコレートティを淹れ、テーブルに人数分並べて腰掛けた。
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