【短】逃げないことを、逃げの言葉にするのはいい加減して

「敦、今夜は何時?」

「あー…今日は晩飯いらないや。ごめんな?」


火曜日と木曜日は、いつもこんな感じだ。



だから、私はなんの気なしにそれだけ聞いた後、何でもないことのようにただ慌ただしく、カシャカシャとシンクの中の食器を洗い続ける。


それをどう感じ取ったのか、彼は私の背後に回って私を抱きしめようとする。


「奈々恵〜。今度美味い飯でもどっか食いに行こ?な?」

「はいはい。私のご飯より外のご飯が良いわけね」


その安っぽい気配を感じた私は、サッと立っていた位置を変えて、薄く笑い掛けた。


「まぁ、いいわ。そろそろ時間でしょう?行ってらっしゃい」

「え…?あ、あぁ。そうだな。んじゃあ行ってくるよ」


するり、と私に交わされてしまった彼の腕は、空を切って虚しくだらりと下へ落ちた。



馬鹿な男。

そんな、肌艶良く機嫌の良いテンションで、朝からそわそわと家にいたら、この後何があるかなんてバレバレだというのに…。


結婚して三年目。
左の薬指に付いた痕が嫌になる程、陰鬱としたこの梅雨入り時期に、異変を感じたのは…もう何度目のことだろうか。

というか、学習性のない所は昔から変わっていない。


「あー…面倒くさい…」


ドカリ


そんな音を立てるようにソファーに身を沈めて呟いた。




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