ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

怒りの静まりの場

【拓也side】


すぐに分かった。
梨愛は何か、俺に隠している。
ずっと上の空で、昼は体調も崩した。
フラつくほどに。
保健室へ連れて行き、梨愛の事が心配で手を握っていた。
梨愛は途中うなされて、汗までかいていた。
でも目覚めた時は顔色も良くなっていて。
だから、6時間目終わりまでは休めと言い保健室を出た。
野暮用があり、その後すぐに梨愛の元へ行こうと思っていた。
でもその野暮用が長引いて、予定より10分過ぎてしまった。
そして、梨愛の教室へ向かっていた時。
俺は目を疑った。
「あの、桐谷先生……」
事務の桐谷先生が、梨愛のカバンを持っていたから。
なぜ分かるのか。
俺は、前のクリスマスの時に梨愛にキーホルダーをプレゼントした。
それから、梨愛はカバンの持ち手に付けていたから。
「そのカバン、り……桃瀬さんのですよね?」
「ああ、今用で校舎裏に行ったら、このカバンが落ちてたんだ。近くに桃瀬がいると思ったんだが、呼んでもいなくてな……。とりあえず、職員室で預かってようと思ったんだが。」
校舎裏?梨愛は、前の事がトラウマになってるのかと勝手に思ってたが、実際はそんなこと無かったのか。
いや、それより何で当の本人が見つからないんだ?
その時、カバンの横ポケットに何か紙が入っているのが見えた。
そこには文字が書かれていて。
『今日の放課後、一人で校舎裏の倉庫に来い。
来なければ殺す』
……は?何だよ、これ。
ただ、一つだけ分かったのは、梨愛が危ないということだけ。
気づいた時には、もう走り出していた。
「あっ、おい!どこ行くんだ!?それより、廊下は走るな!!」
廊下は走るな、だと?
梨愛が危ないのに、急がないとか無理だろ。
こんな事をする奴は、アイツらしか思い浮かばない。
俺を梨愛で釣り出すのが狙いだろ。
アイツらの溜まり場は……あそこか。
場所に検討がつくなり、待機させていた車にすぐ乗った。
「俺が指示するからその通りに向かえ。それとなるべく急いでくれ。」
「かしこまりました。」
生きた心地がしない。
梨愛が、アイツらの元にいると思うと。
アイツらは何をするか分からない。
犯罪を平気でする様な奴らだから。
アイツら、梨愛を俺から遠ざけたからには……殺さない訳には行かないな。

至る所に錆びた鋼材があり、壁には真っ赤なスプレーで描かれたと思われる絵もあるその倉庫。
それは、奏多さんを殺した奴ら狂牙(きょうが)の倉庫だった。
今は、もうほとんどメンバーはおらず、奏多さんがいた頃次期幹部候補だった3人だけが残っている。
1度、ここへは来た事がある。
奏多さんの仇を打つために、攻め込んだ事が。
ここに梨愛がいるに違いない。
堂々と入口から入ってやろうと思い向かう。
入口は大きく開いていた。
でも、それが至っていけなかった。
向こう側が、よく見える。
梨愛が、襲われているのが。
「……は?お前ら、何、してんだ?」
1歩ずつ進んでいく。
奴らは動揺が隠しきれていなかった。
「何でお前がここにいるんだよ……想像はしてたが早すぎるだろ。」
「なぁ、何してんだ?」
「あれ、お前怒ってる?怒ってるよね?それそれ、それだよ!」
プツン
俺の中で何かが切れる音がした。
ああ、コレだ。
腹の底から、制御出来ない力が湧き上がってくる。
奏多さんの仇を取る時も、こんな感覚だった。
「なぜ、答えない?なぁ、何してんだっつってんだろ!!」
俺は全員に思いっきり蹴りを入れた。
おお、よく飛んだな。でも、これじゃまだぬるい。
梨愛を襲っていた奴の元へ行く。
「はっ、はっ……全然なまって、ねぇじゃねぇ
かっ」
「黙れ。」
今度はソイツを殴った。
そしてソイツの上に跨り、顔を殴り続けた。
このまま、死んでしまえば……。
そんな事を考えてしまっていた。
もう、無意識に顔を殴っていた時。
「タタっ!!」
梨愛の声が聞こえて、ハッとした。
梨愛はまだ、鎖で繋がれたままだ。
コイツは……立てねぇし逃げらんねぇだろ。
一旦ソイツは放置して、梨愛の元へ向かう。
「タタ………」
梨愛の胸元のボタンは外れている。
拳を握りしめる。
俺は、なんて無力なんだ……。
そう自分に失望しながら、鎖を解き自分が着ていた制服を梨愛に羽織らせる。
「ごめんな……梨愛の様子がおかしい事、分かってたのに……」
俺は、梨愛をそっと抱き締めた。
いや、俺には梨愛を抱き締める資格なんか無い。
「タタ、そんな悲しい顔しないで。梨愛が巻き込んだんだから、タタは何も悪くない。ね、いつも言ってるでしょ?」
「いや、巻き込んだのは俺だ。また俺のせいでこんな危険な目に遭わせて……」
俺は、そっと梨愛の頬に触れる。
柔らかい。
この手を離してしまいたくない。
離したら、これから先梨愛を危険に晒す事が度々ありそうで。
少し目を離したら、もう自分の元へ戻って来なくなりそうで。
………そんな事が怒らないように、コイツらを潰す。
ソイツらの元へ行く。
でも、止められた。
「タタ、どこに行くつもり?」
「………ちょっとだけ、待っててくれ。」
「ううん、待たない。酷い有様の彼女を置いていくなんて。」
「そういうつもりじゃ……」
いや、見苦しい言い訳はやめろ。
今までもこれで梨愛を危険に遭わせたんだ。
「タタ、さっきあの人達の所行こうとしてたで
しょ。梨愛のために。」
そうだよ、梨愛があんな事されたのに、俺が許せるわけが無い。
梨愛は俺の考えが分かっているかのようだった。
「別に、許さなくてもいいんだよ。梨愛もそのつもりだし。でもね……梨愛は、タタが来てくれたから本当に大丈夫なんだよ。だから、もうこれ以上タタの手を汚さないで。」
「っ………」
確かにそうだ。
この手を汚す訳にはいかない。
梨愛の隣にいる為にも、これからの為にも。
「ねぇねぇ、タタちょっとこっち来て。」
そう言って手招きをする梨愛。
「……?」
言われるがままに近づくと、その倉庫には可愛らしいリップ音が鳴り響いた。
「!?は、………」
「へへ、びっくりした?」
梨愛から、俺にキスをしたのだ。
なんなんだよ、本当に。
なんでそんなに可愛く生まれてきたんだよ。
俺を殺したいのか?
「可愛いことするな。男はみんな狼なんだから。食われるぞ。」
「タタが狼?かっこいいじゃん!!」
「あー、もう……無自覚が……」
耐えきれずに、俺は梨愛にキスをした。
顔が赤い。
「梨愛は大人しく、俺に愛されてろ。」
そしてまた、今度はさっきより長くキスをした。
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