ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

体育祭

【梨愛side】


空は快晴で、鳥のさえずりも聞こえる今日この日。
梨愛の心境は最悪です。
クレープをたくさん食べて夢心地だったのに、体育祭という1部の界隈に人気な学校行事の事を思い出して、梨愛は魂が抜け駆けている。
何で寒い季節に体育祭なの!?
出る種目は決めたけど、どうしても希望競技の紙に書く気にならない。
それに、まだ何故かほとんどのクラスメイトが紙を提出していない。
女の子は拓也と同じがいいのは分かってるんだけど……なら男子は何でだろう?
それに何故かチラチラ梨愛の事見てくるし。
「……ねぇ、なんでだと思う、拓也?」
聞いただけなのに、何故か不機嫌になる拓也。
何かまずい事言ったかな?
「ああ、何でだろうなぁ?」
声のトーンがもうまずい。
「どうしたの、拓也!何でそんな不機嫌なの?梨愛、悪い事しちゃった?」
そう聞くと、拓也はいつも通りに戻って。
「いや、梨愛は何も悪くない。梨愛は。」
2回言ったのが気になるけど……元に戻って良かった。
そして締め切りがあり、次の日。
先生こんな事を言っていた。
「どのクラスも女子はリレーと障害物競走、男子はパン食い競走と借り物競争が圧倒的に多かったんだが。お前らそんなにこの競技やりたいのか。」
そう言うと、生徒達は目を泳がせて言う。
「さ、さあ?わたくしにはなんの事やら……」
「お、俺も。適当に決めたし、たまたまなん
じゃ……」
「そうか?でもたまたまにしちゃ被りすぎな気がするんだが……」
「ま、まあまあ、いいじゃないですか!」
やっぱり、拓也に合わせたんだ。
それにしても、男子の競技梨愛が選んだ奴と一緒……。
まさか、梨愛に合わせた?
いや、そんなはず無いよね。
そんな事を考えているうちに、体育祭の練習が迫ってきていた。
「純麗!一緒でよかった〜!」
もちろん体育祭の練習はしたくないけど、純麗がいるから少しは頑張れそう。
「ええ、男子は多くても女子は少なかったみたいだから。」
今梨愛達はグラウンドに来ていて、今日はパン食い競走の練習。
練習内容は、もちろんパンをくわえる所もなんだけど、身長差があってパンを取りにくい場合がある為、紐はどのクラスも同じ高さでは無く、クラスごとに分けてある。
その高さを次に出る人が調節しないといけないことになってるから、誰にはどれくらいの高さがいいのか、感覚で覚える練習が主な内容。
パン食い競走は各クラス女子4人男子4人が出る事になっていて、前の人がゴールしたら後ろの人が他のクラス構わずスタートしていくリレー形式。
まず男子4人があり、次に女子のターンが回ってくる。
女子の順番は、梨愛が2番目で純麗が3番目って事になってるんだけど……。
梨愛がこの身長だから……練習のごとに心が傷ついていきそう。
次の人が純麗だったからまだしも、他の人にやられてたらその人に怒っちゃいそう。
ママもパパもスラッとしてるのに……なんで梨愛はひく……いや、何でもない。
練習をし始めると同時に、他のクラスの1人の男子がこんな提案をしてきた。
「ねー、せっかくだから本番と同じように全クラスでやらねー?その方がやる気出てくるし、自分のクラスがどれくらい速いのかも分かるじゃん?」
確かに。
各クラスバラバラに練習していると、いざ本番になって差がありすぎたらやってる側も見てる側も面白くない。
あの男子……結構いい案だすじゃん。上から目線ウザイな。
そんな自分に自分でツッコミを入れていると、周りからもどんどん賛成の声が上がってくる。
そして、やっぱりみんなでやる事になった。
まずは男子。
スタートダッシュはどのクラスも同じくらいの速さ。
でもやっぱりパンで差が出てくる。
そして、6番目の梨愛の時には、4クラス中2位だった。
梨愛、運動出来ないけど……なるべる1位との差をキープしたい!
そう意気込んでいたのに。
スタートダッシュも遅いし、パンにすごく手こずった。
「はむっ、はむっ」
流石は純麗。高さは結構いいんだけど、そこからが中々取れない!
袋滑るし、時々風吹いて変なところ行っちゃうし。
そんなこんなで、梨愛から純麗に交代する時は4位になってしまっていた。
純麗はすぐにゴールしていたけど順位は変わらず。
最後の女の子は、圧倒的4位でゴールしたから恥ずかしそうだった。
ごめんなさい、梨愛のせいです。
「うわぁ〜ん!純麗、どうしよう!?」
梨愛は純麗に抱きついた。
運動が出来ないこの体が嫌になる。
だから直そうと思った事もあるけど、朝のランニングとか続かなくて断念。
それに梨愛、朝弱いし。
だから、足の速さは諦めるとして……パンの高さ。
というか、高さは完璧だから、どうしたらパンを早くくわえられるか。
足の速い子もパンで結構差が出てたから……そこが勝敗の分かれ目だと思う。
「梨愛、パンの位置は大丈夫だった?」
「うん。それはバッチリだった。」
「それは?」
「あ……うん。だから、後はどれくらい早くくわえられるかにかかってると思うの。だから、どうすればいいと思う、純麗?」
「………」
純麗は、何故か梨愛をじっと見つめている。
「どうしたの?」
「あ、いえ……梨愛が運動嫌いなのに体育祭の練習頑張ってるから、私なんだか嬉しくて。」
「!」
確かに。
今までの梨愛だったら、絶対に何となく練習して体育祭に出てたと思う。
でも、最近は自分でも変わったと思う。
多分、拓也との出会いだと思う。
今まで梨愛は、男子をあまり知りもしないのによく思ってなくて、無意識に避けてきた。
でも、拓也や亮みたいな優しい人と出会って、梨愛も以前より人の助けになりたいとか、そう言う言葉をかけられるようになった……と思う。
あまりイライラする事も無くなったし。
これも、拓也のお陰なんだな。
「ねぇ、純麗!梨愛ね、最近拓也といて楽しいの!だから、体育祭頑張れると思う!あ、もちろん純麗といても楽しいよ?」
「!……ええ、私も梨愛と居れて楽しい。でも、清美君だけじゃなくて、私とも遊んでね?」
「うん!」
純麗はやっぱり、最高の自慢の友達!

そして、次の日も次の日も練習した。
借り物競争は、借りないといけないから流れだけ確認して、後は借りる物にかけた。
そしてリハーサルの日。
今日は、流れも全部通し、実際に物も他生徒から借りて行う。
憂鬱ではあるけど、もう頑張るって決めたから精一杯勝てるように努力する。
本番も大事だけど、リハーサルも事前準備として1番大事。
ここで負けてたら、本番へのやる気も下がる。
だから、梨愛が迷惑をかける訳にはいかない。
そう思っていたのに。
「続いて、全クラス対抗戦によるパン食い競走です。」
ついに、パン食い競走がやって来た。
そして、辺りにピストルの音が鳴り響いた。
梨愛、この音ビックリするから嫌なんだよね。
そんな事を考えていると、あっという間に梨愛の出番に。
心臓の動きが激しくなっていくのがわかる。
失敗出来ない、失敗出来ない……!
そう自分に言い聞かせ、プレッシャーをかけてしまっいた。
すると、梨愛の恐れていたことが。
隣のレーンの人とぶつかって、転んでしまったのだ。
さ、最悪……!
すぐ立ち上がろうと急ぐと、左足首に痛みを感じた。
でも、今はそんな事どうだっていい。
純麗の所まで、みんながいる所まで早く帰らないと!
何とか、純麗にバトンを渡す事が出来た。
「はぁ、はぁ……っ、はぁ……」
息が切れて呼吸が荒い。
本当、体力、無さすぎっ……。
梨愛が情けなさと足に痛みを感じていたら、こちらへ向かってきてくれている影が。
それも2人。
「拓也、亮………」
「「梨愛、大丈夫か!?」」
2人の声が重なる。
本人達も、揃った事に驚いているようだった。
2人が意見会う事あるんだ………。
梨愛の事心配してくれた。
「2人ともありがとう。」
大丈夫だと知らせるために立とうとしたけど、やっぱり立てない。
これ……足やっちゃったかな。
って言うか……
「まだ競技中なんですけど!」
さっきやっと純麗が帰ってきたくらいなのに。
競技を中断しちゃダメでしょ!!
「そんな事言ってる場合かよ!?」
「そうだ。それと……おい、お前。」
そよお前というのはさっき梨愛とぶつかった男の子。
睨んでる拓也、凄い怖いんだけど……。
「2人とも、大丈夫だから……ね?」
男の子が気の毒で気の毒で仕方ない!
威圧感ありすぎだよ、拓也と亮。
「いやダメだ、梨愛は実際怪我してるんだ。」
「梨愛を傷つけておいて許せなんて、無理に決まってる。」
えぇ〜。
じゃ、じゃあ、もうこの手しか!
「梨愛、足痛い。早く保健室に連れてって?お願い、ね?」
「「っ………」」
よし!
こんな手を使うために愛されてる自覚がある梨愛も梨愛だけど。
だってこのままじゃ男の子殺されちゃいそう!
亮と拓也は、男の子から目を離し、梨愛を心配げに見てきた。
「痛いよな、ごめんなすぐ連れてってやれなくて。今すぐ連れてくからしっかり捕まってろ。」
「いや、俺が連れていく。」
ああ〜、もうなんでそうなるの!?
どっちでもいいから!
梨愛は呆れて、痛がっているように顔をしかめた。
実際はそこまで痛くない。
「!?梨愛!しっかりしろ!」
ん!?
「保健室じゃダメだ、病院連れてくぞ!おい、今すぐ車用意しろ!」
んん!?
そ、そんなに!?ど、どうしよう、ここまで大袈裟になると思わなかった。
「拓也、亮、病院はいいから!保健室!」
「……ほんとのほんとか?」
「うん!!」
そして一件落着。
あの二人、過保護すぎるよ……。
これから大丈夫かな。
そんな事を思いながら、梨愛は保健室からグラウンドへ戻ってきていた。
捻挫らしい。
すると、競技があるから渋々先に戻った亮と拓也の姿が。
「梨愛、歩いたらダメだ。保健室にいろ。」
「え〜、だって借り物競争あるし……。」
「そんなもん誰かにやらせとけば良いんだよ。」
いや良くない。
「出る!」
「ダメだ」
「だめ」
「ダメ」
梨愛と2人の言い合いが始まった。
最後には、拓也と亮が折れて梨愛の勝ち。
そして借り物競争の始まる時間に。
借り物……何が書いてあるのかな。
梨愛、他の人ももちろん中の紙に、何が書いてあるのか知らない。
だから、不利な物と有利な物の差もあるだろう。
なるべくすぐ借りられそうなものを!!
そう願って、梨愛はスタートラインに立った。
そしてピストルの音が鳴ると同時に、みんな一斉スタート。
まずは、ちょっとした障害物競走みたいなものをクリアし、最後に借りる物が書いてある紙が入ったボックスへ。
梨愛は、練習よりも早くボックスの前へ来る事が出来た。
「お題は……これ!」
そう意気込んで引いた紙にはこう書いてあった。
……好きな人。
梨愛は目を疑った。
こんなのも入ってるの!?
これ、引き直すことは出来ないし……もうっ、なるようになれ!
そして、梨愛はある人の元へ走った。
そのある人と言うのも。
「はっ、はっ……た、拓也!」
もちろん拓也。
梨愛は、拓也が好き。
「梨愛!?」
珍しく慌ててる拓也も、可愛くて大好き。
そんな梨愛は、ゴールに向かって走り続ける。
拓也の手を取って。
「1年A組ーー!!ダントツの1位です!!」
拓也と一緒なら、梨愛の短所だって、誇れる気がする。
「梨愛、急にどうしたんだ?借り物競争だろ?」
急にって言って走った割には、全然息が上がっていない拓也。
……羨ましい。
「梨愛はちゃんと借り物競争したよ?」
「??」
困惑してる。
くっ……可愛いっ。
おっと、いけないいけない。
梨愛は、恥ずかしがりながら拓也に説明をした。
「だって、お題が……『好きな人』だったんだもん……っ」
梨愛は耳を隠す。
暑い………。
手をパタパタさせていると、拓也の顔が近づいてきた。
「っ……」
そしてキスを。
ちょっと、みんないるのに!
ギャラリーの声が一層うるさくなる。
「おっと!?これは、有るか無いかと騒がれていたあのお題なのか?アレなのか!?………羨ましい。」
え!?
しっかりと放送委員の仕事をこなしながらも、最後に本音が出てしまっている女の子。
〜、もう!!
梨愛は、拓也を手でバンッと押し引き離した。
「〜〜、拓也のバカ!」
そしてその場から逃げ出した。
キスが嫌だった訳じゃない。
でも、足が勝手に動いてた。
「梨愛!」
後ろから拓也の声が聞こえたけど、梨愛は振り返らなかった。

「あーあ、逃げてきちゃった。」
梨愛が今居るのは学園の屋上。
体育祭だから、屋上には誰もいない。
……まだ、唇熱いな。
拓也から逃げ出してきても、拓也の事を思い出してしまう。
梨愛は、ここから下に戻れる気がしない。
恥ずかしいのもあるし、拓也に顔を合わせずらいのもそう。
「この後は、花火があるんだっけ。」
この学園では、お金持ちなところもあって、夜に花火を打ち上げる事になっている。
普通は文化祭だと思うけど、うちでは花火を見て疲れを取ろうって事で体育祭で花火を上げる。
拓也は、夜になったら会いに行こう。
そう思っていたのに。
扉が大きく音を立てて開いた。
「っ、梨愛!」
「拓也!?」
まさか、こんなに早く来るなんて……。
拓也の事だから、夜までにはここに来ると思っていた。
でも、ここまでだとは想像していなかった。
だって、まだ梨愛が逃げ出してから10分も経っていない。
そして梨愛はハッとする。
「っ……こっち、来ないで……」
でも、足を動かせるのを止めない拓也。
「お願いっ、もう、何がなんだか……ごめんね、拓也は何も悪くないのに。ちょっと、びっくりしちゃって……」
「梨愛………」
そこで拓也は足を止めた。
ああ、梨愛、何してるんだろう。
「あのね、梨愛はキスが嫌だった訳じゃないの。
でも、多分周りが気になって……亮も、見てただろうし。」
フッておいて勝手だけど、こんな理由要らないかもしれないけど。
やっぱり亮は、梨愛の大切な幼なじみだから。
「じゃあ……ここなら、良いだろ?」
そう言って、止めていた足をまた動かし始めた拓也。
「え………たく、んっ」
さっきより深く、長く、甘い。
梨愛は、更に拓也を好きになる。
「たく、やっ……ちょっと……っ」
「無理、さっき結構焦ったんだからな。」
さっき……梨愛がいなくなったから?
拓也は、いつも甘い事しか言わない。
梨愛のビターは、ミルクに変わっていく。
色だって、赤く。
そして、数分経ってやっと離れてくれた。
「今度こんな事急にしたら、もう口聞いてあげない。」
「急にじゃなかったら良いのか?」
「うっ……そうじゃない!」
もうっ。
それから、梨愛達は2人で体育祭をすっぽかした。
他愛もない会話をして、2人の時間を過ごす。
そして気づいたら薄暗くなってきていた。
「……花火、もうすぐかな。」
屋上はきっと、特等席なんだろうな。
梨愛と拓也で二人占めしてやるんだから。
そんな事を思って数分後。
花火があるから外に注目というアナウンスが流れ、綺麗な花火が音を鳴らして空を照らした。
頭上が紅、青、黄と彩られる。
それと同時に、梨愛の瞳も色鮮やかに変化した。
「拓也、綺麗だね。」
「ああ、桃色が綺麗に光っているな。」
ん?ピンク?今の花火オレンジだけど。
「ほら見て!虹みたい!」
「ブロンドヘアがいつにも増して綺麗だ。」
ヘア?花火でしょ!それにピンクって、梨愛の目の事!?
と思い、チラッと拓也の方を見てみると。
梨愛を真っ直ぐ見つめていた。
!?
「ちょ、ちょっと拓也!?花火〜、綺麗、だよ?」
「俺は花火より、梨愛を見てたい。」
拓也、かっこ良すぎでしょ。
梨愛は、その顔に見惚れていた。
すると、拓也の顔が赤くて。
「梨愛、そんな……見るな。」
拓也、恥ずかしがってる。梨愛の顔は見るのに。
そんな拓也を見ると、意地悪をしたくなった。
「嫌だっ、見るもん。」
そして、じーっと拓也を見つめる。
何だか、我慢勝負みたいになってきた。
結果梨愛の勝ち。
拓也は目を逸らした。
そんな時も、花火は咲き続ける。
2人を包む背景かのように、世界の音を消し去るように、梨愛と拓也をぎゅっと。
仕上げに、1番大きな金色の花火が上がった。
それは、火の矢が降り注いでいるみたいで、とても幻想的だった。
すると拓也が急にこんな事を。
「梨愛、愛してる。世界で1番好きだ。」
「っ………」
少しだけ暖かく微笑むその姿は、王子様そのものだった。
逃げ出したのがバカバカしい。
「拓也、梨愛も拓也のこと好きだよ!!」
梨愛は、拓也から離れるなんて考えられないから。
この先も、梨愛は拓也のものだよ。
そして約1ヶ月後。
梨愛達は1年生を終えた。
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