8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
 一時間して戻って来た兵士の報告は、眉を顰めるようなものだった。

「地盤沈下、だと?」
「ええ。鉱山夫が寝泊まりしている宿舎を中心とした一帯が、やや傾いているようです。それと、鉱山内に一部亀裂が入り、そこから水が漏れだしているようです」

 地層には水はけのいい層と悪い層があり、悪い層の上に水が流れる地下水脈が出来上がる。そこにぶちあがってしまうと、大量の水が坑道内にあふれ出し、採掘ができなくなる。それでも決行しようと思えば、水を取り出すためのポンプ設備を導入せねばならず、またお金がかかる。

「採掘により、地盤が緩くなってしまったのではないでしょうか。最近は鉄鉱石も取れなくなってきましたし、このまま、閉山したほうがいいのでは……」
「くっ……」

 しかし、今止めてしまえば、つぎ込んだ資金の回収ができない。
 多くの利益が出ることを見越し、ベンソン伯爵は私財も多く投入していた。報告兵の意見を簡単に着きれるわけにはいかない。

「いいや。地盤沈下の件だけ報告しよう。あれだけの鉄鋼石が取れたのだ。絶対に我が領土にはまだまだ鉄鉱石が眠っているはずだ」
「はっ」

 ベンソン伯爵は、急ぎ報告書をまとめさせ、王都へと向かった。

* * *

 王立デルフィア初等学校では、ひと月後に合唱祭が開かれる。これは開校当初から行われてきた歴史のある行事で、王族も視察にくることで有名だ。
 各学年、男女ひとりずつしかないソロパートに抜擢されることは、どの生徒にとっても名誉なことだった。

「う、ふふふっ、ふーん」

 まるでステップを踏んでいるかのような足取りのアイラを見て、マーゴットとエミリアが微笑ましく眺める。

「ふふ。ご機嫌ね。アイラ様」
「そりゃそうよね。念願のソロパートですもの」

 先ほど、合唱祭のソロパートの担当を決める歌の試験があったのだ。そしてアイラは、念願のソロパートに選ばれ、クラス全員の前で褒められたのである。

 音楽室から教室に戻るまでの間、アイラに一言かけようというクラスメイトで人だかりができている。

「アイラ様の歌、良いよな。俺、音楽はよくわからないけど、アイラ様の声は好きだな」

 レナルドがそう言うと、エミリアも頷く。

「あの透き通った声は、ほかの人には出せないわよね」
「うん。僕、正直気が引けちゃうよ」
< 29 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop