8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「ねぇ、ドルフ。このネズミ。もしかして聖獣?」
ドルフは小刻みに震えているネズミのにおいを嗅ぐ。
『そのようだな。でもだいぶ、弱っているようだ。このままだと……』
「助けるよ、僕」
オリバーはポケットからハンカチを出して広げると、ネズミを包んだ。怪我はしていないようだが、ひどく衰弱している。
「聖獣って弱っているときは何を食べるの?」
『飯は特に必要ない。自然の多い土地の空気が一番の栄養だな』
「……ドルフ、子犬の時は食べているよね」
『必要はないが、食えないわけじゃない。気分の問題だ』
そっぽを向いたところを見ると、それなりに食事は楽しんでいるのだろう。
「とにかく、水でも飲ませようかな」
『それこそ、ルーデンブルグの湖にでも連れて行けばよかろう。あそこなら聖域と言えるような空気が清浄な土地だし、俺なら一瞬だ』
「わかった。じゃあお願い」
オリバーはネズミを抱えたままドルフの背中に乗り、一気に湖まで駆け抜けてもらった。
久しぶりに訪れたルーデンブルグの湖は、相変わらず静謐な空気に包まれていた。今は夜だから獣たちも寝静まり、夜に活動する取りや小動物がひそやかに鳴き声を響かせている。
オリバーは湖畔のほとりに降ろしてもらい、指先に水をつけて、ネズミの唇を濡らした。
「ほら、飲める?」
最初は反応がなかったが、丹念に唇を濡らしていくと、やがてひげをピクピクと動かし始めた。小さな舌を出して、オリバーの指を舐める。
「少し元気になってきたかな」
指を水につけ、与えるのを繰り返していくと、ネズミは少しずつ動きがよくなっていった。