8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
『ベンソン伯爵領内の鉱山の近くだと言っていたから、このあたりだろう』

 ドルフが空中で止まったので、そうっと下を眺める。先日、夜の散歩で来た採掘場の近くだ。鉱山夫が仮住まいするための建物が、わずかに斜めに傾いている。

「傾いた建物ってこれかな」
『そのようだな。斜めにはなっているが、崩れてまではいないようだな。……だが、人は誰も居なさそうだ。おそらくは避難したんだろう』

 ドルフはそっと中を覗き、そう結論づける。

「建物が傾くなんて……。地面がつぶれたってことなんだよね」
『まあそうだろうな。見た感じひどい地震でもなさそうだし、採掘で地盤がゆるんでいたのか、地下水が噴き出して空洞ができて崩れたかどちらかじゃないか?』

 ドルフがぶつぶつとつぶやく。
 オリバーには彼の言っていることがよくわからないが、なんだか妙に、地面のあたりが気になった。

「ドルフ、下ろしてくれる?」
『気を付けろよ』

 地面に降り立った時、体がぐらりと揺れを感じた。

「あ、揺れる」

 小刻みに感じる振動。揺れているが、別に立っていられないほどではない。

「これが地震……?」
『そうだな』

 オリバーにとっては初めての経験だった。
 しかし、この程度であれば、災害が起こるほどの揺れだとは思えなかった。

『……う』
「ん?」

 風の音に紛れて、かすかに声が聞こえた。オリバーは周囲を見渡してみたが、何も見つけられない。

「ドルフ、今何か……声がしなかった?」

 もう一度目をこすると、今度は、地面の一か所が、淡く光っているのが見えた。

「ドルフ、あれ」
『なんだ? ……なにかいるようだな』

 近づいてみると、小さな生き物が地面に埋まっているのが分かった。

「生き物? 大丈夫かな」

 オリバーは膝をつき、その生き物を助け出す。オリバーの手のひらより小さなネズミだ。体毛は茶色、瞳は赤だ。体全体で呼吸をしているが、意識は朦朧としているようでオリバーが手に乗せても反応は薄い。
 オリバーは、ネズミを手にした途端、ドルフやリーフェに対面したときのような不思議な感覚が湧き上がってきた。
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