冷酷な処刑人に一目で恋をして、殺されたはずなのに何故か時戻りしたけど、どうしても彼にまた会いたいと願った私を待つ終幕。
「セシル・ブラッドフォード公爵令嬢……せめて、一息に。苦しまぬように致します」

 非情な決断を下し自らを呼び出した主に、目の前で座り込んでいる私を殺すように命じられ、彼は短く呟いた。

 私の目に入るのは感情が見えない、紺碧の瞳。ただ、それだけ。

 まるで、裏稼業の人間か暗殺者を思わせるような不気味に見える黒衣を纏い、コツコツと靴音をさせて、こちらへと近付いて来る背の高い男。

 未来の王太子妃……王妃へ嫌がらせを繰り返した冤罪を被った私にとって、彼は恐ろしい死神になるはずだった。

 けれど、どうしてだろうか。私には彼が与える死でさえも、残酷な美しい天使による断罪に思えてしまうのだ。

 ああ……きっと。私は、もうすぐここで彼に殺されてしまう。すぐそこに死が迫り来る恐怖よりも先に、彼へと向かう気持ちが勝っていた私は。もう。

 恋という熱病に侵されて、その時にはどうかしていたのだ。

 こちらへと歩み寄る彼の整った顔を、見つめたまま。次の瞬間。私は、かつて婚約者であった人の顔を見つめていた。

「っ……リチャード……えっ?」
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