初めての恋ー孤独な私を見つけてくれたー
プロローグ
「ああ、気持ちいい」柚歩は誰も聞いていないとはわかっていながらボソッとつぶやく。
いつも誰よりも早く出勤して、誰もいない職場の空気の入れ替え、花の水やり、お茶やコーヒーの準備、お茶菓子の確認などをして誰もいない非常階段に向かう。


葉山柚歩は22歳。ここ総合商社YAMAMINEの庶務課に所属しているOLで、ふだんから黒い服を着て、大きな黒縁の眼鏡をかけており、あまり人と話すのが苦手な柚歩は顔を上げるのが恥ずかしくて、ボソボソと話すので『死神さん』と呼ばれている。
ここでは柚歩の存在なんて誰も気づいてくれない。職場の庶務課は自社ビルの一番下の階にあたる3階の一番奥にある。
3階は庶務課以外は在庫管理する倉庫があるだけだ

庶務課にはあまり人も来ないし、庶務課主任と二人なのだが主任もほとんどデスクにおらず、ほとんど戻ってこない。柚歩は一日一人で、パソコン入力や倉庫の整理で一日が過ぎていく。でも、その方がいいと思っている。そんな柚歩が一番好きなのが非常階段でうたうこと。人とコミュニケーションをとるのが苦手な柚歩にとって非常階段で歌うことは安らぎになっていた。非常階段にくると、ポーチからスマホとワイヤレスイヤホンを取り出し、小さな声で好きな歌を口ずさむ。
何を歌うのかいつも柚歩の気分でスマートフォンにダウンロードした曲の選曲する。
(今日は気持ちいい気分だから、明るい曲でいこう)
誰も聞いていないと思いながら、選曲した曲をかけて歌い始める。

誰もいないこの時間が柚歩は自分らしくいれると思っている。人付き合いは苦手だし一人でいる方が本当に好き。
柚歩が一人で歌っていると、あの人がやってきた。

「葉山、おはよう。やっぱりここにいたのか。庶務課覗いたらいないからもしかしてここかなって思ってた。探したよ」
「あ、おはよう」柚歩は小柳君の顔を見ずに答えた。

小柳要は同期だが、柚歩よりも年上だ。仕事もできて人当たりもいいため、女子社員からも評判はいい。
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