海に溺れて
⑧ 健康診断
吉澤は取材なのかカナさんに会いたいためなのか毎日のようにやってきた。
そんなある日、毎年二月になるとしている人間ドックでの検査結果が届いた。腸に異常がみられるので再検査が必要だと記載されていた。腸ガンという病名が即座に浮かんだ。僕の母や親戚のひとりも腸ガンで亡くなっている。つい自分も腸ガンなのではないかと思ってしまう。僕の背中にいやらしい汗がふきだしてくるのが感じられた。
そして、真由子の笑顔が心のなかにズームアップするように迫ってきた。気がつくと真由子に今夜会いたいとメールをしていた。
僕はクリニックをいつもよりもはやく終わらせて、カナさんもはやく帰した。自宅兼クリニックに真由子を呼んだのだ。いつもなら自宅だと緊急連絡やほかの来客もあり、落ち着かないということで、外で会うことが多いのだが、今夜は自宅で会いたかった。なんとなく外の騒がしい雰囲気にふれたくなかったのだ。
玄関に着いた真由子のバックを持ったままの真由子を抱きしめた。
「なにかあったのね」
「うん。とにかく中に入って」
僕の寝室のベッドに横たわり、真由子も横に滑るように寄り添ってきた。
「どうしたの?」
真由子の眉毛が小刻みに震えていた。彼女が神経を高ぶらせているときの癖だ。
「うん。このあいだの健康診断で、腸に異常があるから再検査だって。大腸ガンかもしれない」
「えー、やだやだ。やだよそんなの」
真由子は僕にしがみついてきた。
真由子も看護師だから、大腸ガンのことを詳しく知っている。すぐに今後の治療の段取りが頭のなかに浮かんだのだろう。
今のこの状況なのに、なぜかどうしても真由子を抱きしめたくなった。
真由子を抱き寄せようとすると、
「雅人。私そんな気分になれないよ」
真由子はやんわりと僕の額をなでた。
「ごめんね。心配させて。でも、真由子が欲しいんだ。それにガンだって決まったわけじゃないしね」
僕が真由子を強く抱きしめながらそう言うと、真由子は小さく頷き、自分で身につけているものを激しく脱いだ。そして、なにかに憑かれたように僕に抱きついてきたのだ。
「雅人! 雅人! 万が一の事があってもいいように、ねえ、私、雅人の子供が欲しいの」
「もし僕がいなくなったらひとりで子供を育てるつものなのかい?」
「そう。それでもいいの」
僕の頬にいくつもの涙が伝っているのがわかった。真由子も涙でほとんどの化粧がとれていた。
ベッドに缶コーヒーとミネラルウォーターを置き、ピザを宅配してもらい、精子を放出しては少し休み、コーヒーを飲み、ピザを食べつつ、また真由子の体に挑み続けた。
僕たちは夜明けまで求め合った。野獣のように、ときには人魚たちが絡み合うように。もう快楽のためではなく、今この瞬間の生きている実感を得るためにおたがいをむさぼりあった。僕は真由子の海のなかで溺れ死んでもいいと、心からそう思っていた。
(了)
吉澤は取材なのかカナさんに会いたいためなのか毎日のようにやってきた。
そんなある日、毎年二月になるとしている人間ドックでの検査結果が届いた。腸に異常がみられるので再検査が必要だと記載されていた。腸ガンという病名が即座に浮かんだ。僕の母や親戚のひとりも腸ガンで亡くなっている。つい自分も腸ガンなのではないかと思ってしまう。僕の背中にいやらしい汗がふきだしてくるのが感じられた。
そして、真由子の笑顔が心のなかにズームアップするように迫ってきた。気がつくと真由子に今夜会いたいとメールをしていた。
僕はクリニックをいつもよりもはやく終わらせて、カナさんもはやく帰した。自宅兼クリニックに真由子を呼んだのだ。いつもなら自宅だと緊急連絡やほかの来客もあり、落ち着かないということで、外で会うことが多いのだが、今夜は自宅で会いたかった。なんとなく外の騒がしい雰囲気にふれたくなかったのだ。
玄関に着いた真由子のバックを持ったままの真由子を抱きしめた。
「なにかあったのね」
「うん。とにかく中に入って」
僕の寝室のベッドに横たわり、真由子も横に滑るように寄り添ってきた。
「どうしたの?」
真由子の眉毛が小刻みに震えていた。彼女が神経を高ぶらせているときの癖だ。
「うん。このあいだの健康診断で、腸に異常があるから再検査だって。大腸ガンかもしれない」
「えー、やだやだ。やだよそんなの」
真由子は僕にしがみついてきた。
真由子も看護師だから、大腸ガンのことを詳しく知っている。すぐに今後の治療の段取りが頭のなかに浮かんだのだろう。
今のこの状況なのに、なぜかどうしても真由子を抱きしめたくなった。
真由子を抱き寄せようとすると、
「雅人。私そんな気分になれないよ」
真由子はやんわりと僕の額をなでた。
「ごめんね。心配させて。でも、真由子が欲しいんだ。それにガンだって決まったわけじゃないしね」
僕が真由子を強く抱きしめながらそう言うと、真由子は小さく頷き、自分で身につけているものを激しく脱いだ。そして、なにかに憑かれたように僕に抱きついてきたのだ。
「雅人! 雅人! 万が一の事があってもいいように、ねえ、私、雅人の子供が欲しいの」
「もし僕がいなくなったらひとりで子供を育てるつものなのかい?」
「そう。それでもいいの」
僕の頬にいくつもの涙が伝っているのがわかった。真由子も涙でほとんどの化粧がとれていた。
ベッドに缶コーヒーとミネラルウォーターを置き、ピザを宅配してもらい、精子を放出しては少し休み、コーヒーを飲み、ピザを食べつつ、また真由子の体に挑み続けた。
僕たちは夜明けまで求め合った。野獣のように、ときには人魚たちが絡み合うように。もう快楽のためではなく、今この瞬間の生きている実感を得るためにおたがいをむさぼりあった。僕は真由子の海のなかで溺れ死んでもいいと、心からそう思っていた。
(了)