秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 なっ? 栗色の髪が視界を掠めたと思った。直後、腹にバフンッと衝撃を受け、慌てて両腕で抱き留めながら後ろに一歩たたらを踏んだ。
 見下ろすと、メイサが俺の胸にしがみ付き、涙をいっぱい溜めた目で俺を見上げていた。
「……無事でよかった! 私、あなたになにかあったらと思ったら、生きた心地がしなかった……っ!」
 苦しいくらいの力で俺に抱きつき、声を震わせるメイサ……。目にした瞬間、苦しいほどの愛しさが胸を焼く。先ほどまで胸に蔓延っていたマイナスの感情が、一気に吹き飛んでいくようだった。
 俺は衝き動かされるように、グッとメイサを懐に掻き抱いた。
「メイサ。今の言葉は、そっくりそのまま君に返す。君の悲鳴を聞き、俺は生きた心地がしなかった。君が無事でよかった……!」
 真に危険だったのは俺ではなく、敵に囲まれたメイサたち。どんなにか恐ろしかったことだろう。しかしメイサは自分のことよりも、俺の無事を喜んで涙する。そんな彼女が健気で、愛おしくて堪らなかった。
「……アズフィール様っ」
「メイサ……」
 俺たちは固く抱き合って、しばし互いの温もりを伝え合った。

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