秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 幼馴染のブロームから強く勧められ、断り切れずに借りてきたのが間違いだったのだ。
 ブロームは針磨工房の息子で後継ぎだが、学者肌なところがあった。昔から歴史や地理に気象学、果ては死生学まで広く学術書を読み漁るのを趣味にしていた。
 ──コン、コン。
 その時、遠慮がちにドアがノックされた。
「はーい。どうぞー」
 私は使用人の誰かがリネンでも運んできたのだろうと、振り返りもせずに返事した。
「メイサ、肩が少し痛むんだ。すまんがいつものを頼めんかね」
「えっ!? お祖父ちゃん! 肩が痛いって、大丈夫なの!?」
 祖父の声を耳にした瞬間、私は飛ぶように席を立ち、駆け寄っていた。
「今朝から少し痛むだけだ。あれは本当によく効くからな。こんなのはすぐに治ってしまう。ほれ、なんと言ったかね」
「お灸ね。言ってくれれば、私が部屋まで行ったのに。とにかく、こっちに座ってちょうだい」
 さっそく、さっきまで座っていた椅子をポンポンと叩きながら祖父を促す。
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